4 side H ページ13
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隆二のマンションを出てから、俺は真っ直ぐにカンナの働く店に戻った。
「いらっしゃ……」
俺を見るなり彼女は眉間にシワを寄せ、こちらに駆け寄ってきた。
「プレゼント、何か不備がありましたか」
「不備?不備はない……多分。あの……誘いに来た」
「誘いに?」
「そう。えーっと、書くものある?」
「あ、はい」
カフェエプロンのポケットからペンとメモ帳を取り出したカンナは、腕をすっと伸ばして俺にそれを差し出した。
「ありがとう」
日時、住所、簡単な地図を書き、それをカンナの手に握らせた。
「良かったら来て」
「………え、これ、どういう」
荒い風に当たらないで育ったという感じの清々しい顔を俺に向け、カンナは戸惑いの表情を浮かべている。
「うちの事務所の人が集まるんだけど………みんな友達とか呼ぶし」
「何か……よく分からないんですよね」
「え?」
「今日3年ぶりくらいに会って、前みたいに戻りたいとかこんな風に誘われたりとか………考えてたんですけど、戻るって……臣さんに戻らなきゃいけない私との場所なんてあるんですか」
思ってもみなかった言葉だった。
二人で出掛けた場所を挙げろと言われたら1つも漏らすことなく言える。
夜、眠れなくて電話をしたこと、たまたま入った店が不味かったこと、彼女があの夏の花火を楽しみにしていたこと。
全部、戻りたい場所。
「……俺にはあるよ。カンナがどうかは分からないけど。だから……その日、待ってる」
軽く手を挙げ店を出ようとした俺を、カンナは「あの」と呼び止めた。
「何?」
「この食事会、Aちゃんと小夜ちゃん来ますか」
「Aと小夜?多分……来ると思うけど……」
「良かった!まだお付き合いあったんですね。連絡先、もう分からないから……お二人に会えるなら……行きます、食事会」
「………わ、分かった!二人に会えるなら来てくれんだな!?」
これは、何がなんでも
二人を呼ばないと。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年5月6日 21時