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「えーっと……地球から月まで行って、帰ってくるくらい」
「ふーん。俺は地球から月まで行って帰ってきて、もっかい月に行くくらい好きだけどね」
「………それじゃ月に行ったままになっちゃう」
「………そうじゃん」
二人して笑って、その間も隆二さんはちゃんと指を動かし続けた。
隆二さんは私の気を粉らわす為にこんな風に優しくしてくれてるのかもしれない。
やっぱり……地球と月を何往復しても足らないくらいに、私は隆二さんが好きみたいです。
邪魔にならない程度に彼の胸に頭を預け、私は愛しいその手を黙って見続けた。
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────彼がペダルから足を離し、5分30秒と少しの演奏時間が終わった。
「すごい!」
感嘆の溜め息と共に拍手をすると「まぁ、こんなもんです」と笑顔で隆二さんは答えて、私の身体をきつく抱いた。
「嬉しかったです。弾いてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「………雨、止みませんね」
「止むよ。明日には」
私たちは目を合わせ、訪れた閑寂を塞ぐように唇を重ねた。
春の雨のように、しとしとと静かにゆっくり、
いつ止むともしれないキスを。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年3月4日 17時