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私は出張教室で使った重い荷物を抱え、長い長い坂を登っている。
バッグの持ち手が肩に食い込んで痛くて、今すぐぶん投げてしまいたい。
「あぁぁあぁ!もう!」
やっと天文台の入り口に辿り着いた私は、倒れ込みそうな勢いでドアを開けた。
「中村くーん!手伝って!台長直帰しちゃうから一人で荷物持って帰ってきた」
荷物をやけくそみたいに床に置いて「いったー」と腰を反らせた私の目に、
「………隆二さん!」
居るはずのない彼が映った。
「どーしたんですか!?」
隆二さんは何故か中村くんと小惑星のコーナーの前に並んで立っている。
「☆さん、荷物俺が片付けるから上がりなよ。閉館のプレートだけ宜しくねー」
「うん、ありがとう……って、え?何?二人で何してたの?」
隆二さんは「それは言えない」と言って、中村くんは“ぷっ”と笑った。
「あ、本日は見学ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。勉強になりました」
二人は挨拶を交わし、中村くんは隆二さんにプラスチックケースを手渡した。
「また、来てくださいね。☆さーん!お疲れー!俺は計算に戻りまーす!」
胸のポケットからペンを取り出し、クルッと回した中村くんは「じゃあね、セドナさん」と私の肩を叩いて事務所に入った。
「セドナさん……?私、セドナなんですか?」
隆二さんは「愛着わくよね、セドナ」とニコニコしている。
「………何か……よく分からないですけど……」
でも、“疲れが吹っ飛ぶ”とはこのことだ。
私は身支度を整え“閉館”のプレートを扉にかけた。
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「今日、どうしたんですか?本当にビックリしました………嬉しいけど」
坂道を二人で下りながら、私はそっと指を絡めた。
「見てよこれ。作っちゃった」
「あ!Suica」
「作ったら使いたくなってさ。んで来た」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年3月4日 17時