3 side R ページ34
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「…………」
肩で息をしているAを見て“何してたんだよ”と言わなかったのは、
彼女の手や顔の所々に絵の具が付いていたから─────
「もう、隆二さんのせいで焦っちゃった。完成したんです!入って入って!」
カラフルな手で俺の腕を掴んで、Aは部屋の中へと引っ張っていく。
部屋の中は、Aの服から漂ってきた匂いがして………これは油絵の具の匂い。
「……絵、描いてたの?」
照れ笑いしたAは、画材置き場にしている部屋の入り口に俺を立たせて、イーゼルに掛けられている布の端を指で摘まんだ。
「いきますよ?」
サッと外された布の中から現れたのは、半畳ほどあるキャンバス。
そのキャンバスの中には、男の後ろ姿が描かれていた。
今にもこちらを振り返りそうな、キャンバスの中のその男は────
「俺………」
「そう。隆二さん」
「これ………描くために?アパートに?」
「うん」
不思議な気持ちになった。
まじまじと見たことがない自分の後ろ姿、微妙な角度で横を向いた顔、でもちゃんとこっちを捉えている視線。
もっと不思議なのは───
「何で?何で描こうと思ったの」
「クリムトの絵覚えてます?」
「接吻?」
「そう!私、あの絵が好きなんです。絵の中で二人は100年抱き合って唇を寄せてる。例え崖っぷちに居ても………彼女は100年愛され続けてるんです」
Aは俺の隣に並んで、一緒になって絵を眺めた。
「私も隆二さんを絵に描いたらずっと………傍に居られるかなって」
「ありがとう………よく描けてるね。上手」
人の絵を評価するほどのセンスはないけれど、彼女の気持ちが胸に詰まって、そう言うのが精一杯だった。
「さて、どうぞ。探して良いですよ?浮気相手」
「え?」
「隆二さん、それ探しに来たんでしょー?」
Aは笑いながら、乾いていない絵の具がついた指先で俺の頬を撫でた。
「ちょっと、絵の具付いたんじゃないの?」
「うん、付いてる。赤いの」
「おい!」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年12月23日 18時