色戀、召しませ。5 (ページ36)

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「こんにちは」

声がしてパッと顔を上げたら、隆二さんが門の方に向かって挨拶をしていた。

体を折り畳むようにして門を見たら、隣のおばさんが回覧板を持ってきていた。

「玄関、回りますね！」

急いで玄関に向かってドアを開ける。

「こんにちは。何？業者さん？」

おばさんは不思議そうな顔で作業している隆二さんを見ている。

「はい。男前な業者さん」

「うちの庇もやってほしいわ……」

おばさんが溜め息混じりに呟いた。

「庇、やってほしいそうですよ！」

「え？」

隆二さんは手を止めて、私とおばさんを交互に見た。

「すみません！自分、そっちは専門じゃないんですよね！」

「あらー、残念」

物置も専門じゃないんですけどねー。

「庇、壊れちゃいました？」

「そう、あのね──」

おばさんの話を聞きながら良い業者さんを紹介しようと思った。

おばさんが帰ってから「休憩ー！」と声をかけた。

「急に話ふるなよ」

そう言った隆二さんが私の隣に座って、冷たい水を喉を鳴らして飲んでいる。

「だって“業者さん？”って聞かれて“三代目さん”って答えられないでしょ？」

「彼氏です、で良いじゃん」

「おばさんが気付いた時に怖いから言わない」

「ふーん………どうでも良いけど暑くね？今日」

「うん、冬じゃないみたい」

隆二さんの額にじんわり浮かんだ汗を、タオルで押さえて拭いた。

「疲れた？」

タオルを退かして、隆二さんを見る。

瞬間、瞳孔がパッと開いたような気がして、更にじっと見つめる私に隆二さんが近づく。

そのキスは、軽く一度。

離れた唇が吸い寄せられるように、もう一度。

二度、三度と続いたあと、さっき飲んだ水のせいで冷えた舌が入ってきた。

隆二さんは深いキスが長い人。

適度な長さはどれくらい？って聞かれても答えられないけど…

角度を変えて深く追い込むようにキスをする人。

悲しくも寂しくもないのに自然と涙が滲むような、そんなキスをしてくれる。