Sudden. ページ7
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「今市!」
と隆二さんを呼ぶ声がして、彼は“どうしよう”みたいな顔をした。
「行ってください。大丈夫ですよ、帰りませんから私」
「そう?じゃあ中入んなよ、取り敢えず」
隆二さんに促されてお店の入り口をくぐったら、物凄く美味しそうな匂いがした。
「ちょっと待ってね」
カウンターの向こうの店員さんと何か喋ってる隆二さんから、壁の腰板に視線を移した。
これ、ジャコービーンのワックス使ってるのかな………すごく風合いが良いな。
あとでスケッチブックにメモしようと思いながら隆二さんに視線を戻した。
「この奥の個室みたいなとこ使って良いって。みんなの中にいるの嫌だったらそこに居な。俺も体空いたら行くから」
「うん、分かった。じゃあ、そこ行きます」
早速!?と隆二さんと店員さんに笑われながら私は通路を真っ直ぐ歩いた。
個室は個室だけど、格子戸で中に誰が居るのか分かる部屋。
靴を脱いで新築っぽい良い匂いをクンクンしながら、ここは巷で“ベッド席”と呼ばれているタイプの部屋だなと気づく。
やらしい雰囲気は皆無。
赤ちゃん連れとか良いんだろうなぁ、コロコロしても大丈夫だもんなぁ。
………仕事モードに切り替わりそうになった頭を無理矢理、元に戻した。
今度、ゆかりとか秀香とか友達を誘ってコロコロしに来よー。
「Aちゃん?」
ふいに名前を呼ばれて「はい!」と大きく返事をした。
格子戸を開けて顔を出したのは
「臣くん!…………じゃなかった登坂さん」
「臣くんで良いよ」と笑った彼は「あ!」と叫んだ。
「な、何ですか!?」
「忘れたー。引率用の旗と笛忘れたー」
───隆二さん本当に言ったんだ。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年1月26日 20時