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「はい、隆二さん」
私が少し背伸びしたら隆二さんは膝を屈めた。
グルグルと彼にストールを巻きながら「記念日終わっちゃいましたね」と笑いかけた。
「終わっちゃいました?」
「0時過ぎた」
空を見上げて、あの星は何て名前だったかな?と考える。
さっき教えて貰ったのになぁ。
さっき───
“帰ってこない?”
消し去った不安が、寒さと一緒に足元から這い上がってきた。
「Aの方が寒そう」
そう言って、私にストールを巻いてくれた隆二さんの笑顔を見たら、じわっと涙が出てきた。
「え!何で泣いてんの?」
もう、記念日終わったから少しくらい泣いても良いですか。
「大事な人が、また居なくなるかも知れなくて………」
私はもう、星に文句を言いたくないのに。
隆二さんと見上げたままの、そのままの星で居て欲しいのに。
「なんで………」
彼に問いかけても、どうしようもないと分かってる。
引きちぎりそうな程、隆二さんのコートを握り締めている私の頭を彼の手が優しく撫でた。
「なんで……だろうね。ごめんね答えられなくて」
酷い泣き顔を見られたくなくて顔を手で覆った私を、彼の腕が包んでくれる。
暗くて寒くて、静かで不安な中、
この腕の中だけが優しくて暖かい。
「臣に言われたんでしょ?」
少し開けていた窓から、微かに聞こえてきた曲。
「Aは、この曲だねって。なに俺が知らないとこで会ってんの!?」
隆二さんがちょっと大袈裟に言うから、私はいつもみたいについ笑ってしまう。
「隆二さん、唄うたんびにウルウルしちゃう?」
「どうかな、内緒」
「えー………」
「ねぇ、俺の声って何色に見えてんの?」
「………どうかな、内緒」
「えー………」
今は、まだ内緒。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年1月26日 20時