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駅から随分遠いクラブだとは分かっていた。
分かっていたけど、帰り道は更に遠く感じる。
飲まなくて正解。
飲んでたら、こんなに早く歩けない。
「お姉さーん！」
サークルの飲み会帰りみたいな集団が近寄ってきて私は「ごめんね」と手を振る。
色々試した結果、この対応が良いのだと最近分かった。
今、分からないのは…………
彼は私を誘ったのに、彼は私を一人にしたこと。
目をそらされた瞬間“俺は芸能人なんだ” “お前とは違うんだ”そう言われた気がした。
“嘘をついた罰だ”と責められた気がした。
駅に着いて見上げた電光掲示板には“最終 渋谷”の文字だけが表示されている。
「あと5分だ………」
パスケースをバッグから取り出そうとした時、着信音が聞こえて私はポケットに手を突っ込んだ。
画面を見て唇を噛んだのは、それが隆二さんからの電話だった事と、
手を突っ込んだ拍子に画面に触れてしまったらしく既に通話中になっていたから。
静かにそっと耳に当てて「もしもし」と小さな声で言った。
“もしもし！？帰った！？”
その声に鼻の奥がツンとして、喉がつまる。
「今、帰るとこです」
“何か怒ってる？”
「怒ってるんじゃなくて………」
私は拗ねてるんだと思う。
男の人に拗ねるなんて何年ぶりだろう。
彼と話せることを楽しみにしていた。
それなのに、ほっとかれて………
“外階段の店、来ない？”
「また………知らない人がいっぱい居るんでしょ？」
思わず力を入れた手の中に、コロンとした物がある。
私はずっと飴を握り締めたままだったんだ。
“居ない、俺だけ”
私は手を開いて飴を見る。
“…………来ない？”
次に“最終 渋谷”の文字を見た。
これに乗らないと、犬小屋に帰れない。
“来ない………かな？”
───ギュッと飴を握り締めた。
「お店、行きます………」
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2016年1月4日 20時
