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来た道を二人で戻りながら隆二さんは、よく話してくれた。
憧れの人のことだったり、地元のことだったり。
うんうん、と頷きながら私は遠くにある横断歩道ばかり見ていた。
あの横断歩道を私は渡る、隆二さんは渡らない。
歩行者用の信号が青になったら、さよならだ。
もう、会わないんじゃなくて
もう会えない。
「隆二さん」
「ん?」
「一回だけ…………ちょっとだけ………手繋いでもらっても良いですか」
さよなら、する前に。
隆二さんは、少し悩んだような顔をしてから「いいよ」と手を出した。
私は差し出された手を一瞬だけギュッと握ってすぐに離した。
とっても、あったかい手だった。
「………あ!青信号!今なら間に合うかも!それじゃあ!」
彼を振り返らずに私は駆け出した。
さよならするのが、もっと辛くなるのは分かっていたのに
どうしても、手を繋ぎたかった。
横断歩道を渡りきって角を曲がって、息を整えるために立ち止まったら電話が鳴った。
“もしもし?今ね秀香と飲んでるんだよ、あの居酒屋で!Aも”
「行く。すぐ行く」
ゆかりからの誘いが、救いに感じる。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年1月4日 20時