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何も答えない私に業を煮やしたのか、隆二さんは手にしていた雑誌を棚に戻してそのままお店を出た。
私は深呼吸してから、また雑誌に目を落とした。
これで良い。
家の近所で、たまに隆二見るんだよ。生もかっこ良いんだよ!
そんな風で良い。
少し時間を置いて温かいカフェオレを選んでレジに置いた。
「袋、入れますか?」
「いえ、大丈夫です」
店員さんがチラッと私を見て、私は思わず目をそらした。
去年まで彼氏とたまに来て、あんな物やこんな物を買ってたのをこの店員さんは知っている。
急に恥ずかしくなった。
「ありがとうございましたー」
カフェオレの缶を握りしめてお店を出て、ちょっと遠回りして帰ろうと思った。
こんな寒い夜は、どうせよく眠れないし。
木枯らしみたいな風の中、手の中の温もりだけを頼りに、あの大きな橋のたもとまで歩いてみた。
今もそこにくたびれた灰皿があって、
2014年の10月、ここで私は涙を飲み込んで………もうすぐ一年。
「Aの家って言うか…………そう言うのがネックらしいんだよ」
漫画の吹き出しみたいに目の前に台詞が浮かぶ。
とても優しい人だった。
私に声をあらげた事もなかったし例え冗談でも“バカ”とか言わない人で
幼稚舎からあそこに通ってたような育ちの良い人だった。
彼は別れ話のつもりじゃなかったらしい。
自分の親が私に対して良い顔をしていないという、ただの現状報告だったんだろうけど
形のない未来にすがり付くのは嫌だったし
私の家庭を否定するのは、私を否定しているのと同じで…………そういう親御さんはまっぴらごめんです、と思った。
そして、次があるならば気付いたら私だけ恋の穴に落ちていて痛い目に合うんじゃなくて、一緒に飛び降りてくれる人が良いなと強く思った。
隆二さんは────考えそうになってやめた。
彼との恋愛なんて、妄想の中でしかありえない。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年1月4日 20時