色戀、召しませ。 (ページ23)

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それからも院に進まなかった理由をネチネチ聞かれて、私はムッとした。

絶対落ちたと思ったけど、その“ムッ”が採用の決め手だったと事務所のボスは言う。

芯がしっかりしてて、ちょっと頑固な方がこの世界では長くやっていけるんだと私に言ってくれた。

主任はさておき、ボスの為に頑張ろうと思う今日この頃。

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「今日のお魚何ですか？」

「今日は赤魚。美味しいよ」

おじさんの勧めでそれを頼んで、秀香と二人ビールで乾杯した。

「今週もお疲れ様でした」

「お疲れ様」

「見てよ、ここ。目元の乾燥やばいから」

私は秀香と顔を近付けた。

「秀香、セラミドだよセラミド」

「なにそれ」

「ヒト型セラミドだよ。もちもちになるよ」

「本当？」

「本当」

肌の曲がり角を越えたのはいつだったんだろ。

そういうときは教えてほしいと思う。

“あなたね、明日、曲がりますから”とかって。

「そんでさー私、来月二十代最後の誕生日なんだよ」

「そっかぁ。来月かぁ」

「こんなさぁ………バリキャリみたいになるつもりなかったんだけどなぁ」

ぽんっと目の前に置かれた赤魚の身を崩しながら、果たして私はどんな二十代を夢見ていたかと考えた。

漠然と結婚しているだろうと想像していた。

でも現実は、LINE一つも処理できない痛くてやばいファンなのだ。

そして、そんなやばいファン生活を楽しいと思っている。

三代目が好きだとは、秀香に言ってない。

そして、２月に隆二さんに誘われたことをゆかりに言えないでいる。

付き合いが長いからこそ、言い出せないことがある。