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A子は、この子を“下手くそなお芝居見てるみたい”と言った。
「あの日銀座で、あ!隆二だ!って見つけて………この人とやっと一緒に働けるんだって思ったら隣に女が居るじゃないですか」
下手くそなお芝居っていうか………
「どんな女か見てやろうと思って………でも、あぁ勝てないなって思いました。綺麗で色っぽくて、でも嫌味がない。諦めたんですよ?その時は」
これは、めちゃくちゃなお芝居だ。
「でも、まさか彼女がスタッフだったなんてー。今市さんも手頃なところで済ますんだなぁって。で、私にもチャンスがあるなと思ったんです」
「チャンス?」
「登坂さんに泣かされたのは、叱られたからじゃないですよね?あのとき先輩、女の顔して泣いてたもん。何か………上手くいってないんだろうなぁって」
脚本も構成も演者も、めちゃくちゃ。
「さっき先輩、今市さんのマンションの前に居たでしょ?私、一緒にタクシー乗ってたんですよ」
めちゃくちゃなのに、この劇場の座席は途中で立つことが許されない。
「この資料間違えたのだってわざとだし………全然気付かなかったんですか?私が今市さん狙ってるって」
そう、私は突っ走って景色を見ないから気が付かなかった。
「先輩、馬鹿なんですね」
彼女は、低く響く大人の声で私を“馬鹿なんですね”と評価した。
「ねぇ、くださいよ。今市さん」
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秋の雨は、一雨ごとに冬の寒さを連れてくるという。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2015年10月27日 19時