イカロスの鍵。 (ページ39)

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みんなで食事に行って彼女の隣に座っても別段話しかけられることもない。

事務所で、くだらない話をしている最中ちらちら目は合うけど、だからと言って話しに加わることはないし。

たまたまエレベーターに二人っきりになったら、無言で気まずい。

だけど岩ちゃんや臣とは、何だか楽しそうな顔してエレベーターから出てくる。

そういう姿を見ると、これで良いんだと思ってしまう。

最近、俺の心は嘘つき。

「隆二さん！」

その呼び掛けに、振り返るのをやめようかと思うときがあるけど…………結局、いつも振り返ってる。

「奇遇ですね！私も今帰りなんです」

「………前髪」

「え？」

「完全に走ってきたでしょ？前髪、浮いてる」

いつも、いつも走ってきてるの知ってるよ。

「一緒に帰っても良いですか……」

「良いけど、俺そこまで出たら車拾うよ」

「じゃあ、そこまで一緒に」

「うん」

誘ってくれたんだから何か話したほうが良いかなと思うけど、共通の話題もないし。

もう何度目だろう、こんな風に彼女の隣を歩くのは。

隣に居るのは俺で良いのかな。

今日、彼女は優しい誰かと巡り会うはずだったかもしれない。

彼女は、俺が好き。

初めて一緒に帰ったのは後頭部殴打事件から１週間後だった。

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「あの………彼女とか居ますか？」

「とかって、例えば？」

「すっ、好きな人」

「すっ、好きな人は居ないよ」

「気になる人」

「居ないよ、全部」

そう答えるしかない。

彼女もいない、気になる人も居ない。

君の事は好きじゃないよ。

遠回しに言ったつもりだった。

なのに今日も彼女は俺を追い掛けた。

「あ、あの！そこの角、右に曲がったとこに美容室出来たの知ってますか？」

「え、知らない。行ってんの？」

「いえ………」

そんな世間話するために追い掛けてきたの？