イカロスの鍵。 (ページ29)

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散り浮く。side T ページ29

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とんでもない場面を見てしまったと後悔してる。

隆二さんに聞きたいことがあって探してたら

顔を机に寝かせたAと隆二さんが見つめあってて………

知らないところで進展してるのかと思ったけど………あれは、そんなんじゃないよねぇ。

「隆二さん」

「ん？」

「自分が食べてた飴を相手の口に入れるってさぁ………付き合っててもしないよね」

「え？」

え？って何だよ。確かにトイレでする話じゃないかもしれないけど。

「あれは何？どういうこと？」

「んー……唾液の交換？」

そっかー！唾液の交換かー！

「何言ってんだよ！！隆二さん！！」

「岩ちゃん突っ込み下手！」

洗面台に移動して、丁寧に手を洗ってる隆二さんの隣で俺も手を洗いながら、彼の横顔を伺う。

「あんま見ないで、照れるから」

「見られた位で照れる人が唾液の交換はしないと思うんだけど」

「そうだねー。お先」

パッと手の水滴を払って隆二さんはトイレを出た。

俺は彼という人が分からなくなってきた。

「ねぇねぇ」

彼の背中を追ってまで、俺が聞きたかったこと。

「好きなの？Aのこと」

「嫌いじゃないよ」

どこまでも平坦で揺らぎのない旋律で奏でられたその言葉。

「酷いなぁー」

「“酷い”か………あ！臣！」

「おー！今日、時間決まったら連絡してよ」

向こうから歩いてきた臣さんが、笑顔で答えた。

「オッケー、あとで」

「はーい」

二人はすれ違いざま、楽しそうに言葉を交わした。

「え、今日臣さんと二人で会うの？俺は？」

「俺は？。俺は？って言った？誘ったじゃん！そしたら真希と約束あるんだーって断ったんじゃん」

「あ、そっか」

「彼女との約束忘れるなんて………酷いなぁ」

ニヤッと笑った隆二さんに返す言葉が見つからなかった。