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ドーナツ1個半では結局、夜まで持たなくて、
ぐーぐー鳴るお腹を抱えて家まで急ぐ途中。
“夜、食べちゃった?”
謀ったようなタイミングで真希からお誘いのメッセージ。
飛び付いた私が向かったお店の真ん中のテーブルで、彼女は雑誌を読んでいた。
何処かに出掛ける予定でもあるのか、旅行会社の封筒をカバンに突っ込んでいる。
「お腹空いたー、早く頼もう!」
「待った?とか今日寒いねとかなし?」
真希は笑いながら雑誌を閉じて、代わりにメニューをテーブルの上に開いた。
「んー……蟹のパイだってー、美味しそー」
オーダーを済ませて、この一週間の出来事を報告しあう。
「今市さんに利用されてる?」
視線を真希に向けた。
「私のこと、痛いと思ってる?」
「全然。好きな人が出来たら程度の差はあれ、みんな痛いよ」
「そうなのかな」
「そうだよ。好きな人のこと、付き合う前に頭の中で一度も脱がさない人なんて居る?それだってかなり痛い妄想じゃん」
真希も岩田さんを頭の中で脱がしたりしたんだろうか。
「私の好きな気持ち使ってくださいって、健全じゃん。全然痛くないよ。で?利用された?」
「うん、ドーナツちょうだいって」
カランとグラスの中の氷が音を立てた。
真希は運ばれてきた料理に目もくれず私をじっと見つめる。
「ドーナツ………?」
「え?うんドーナツ。ねぇ蟹のパイ小さくない?」
「ちょっと待って」
そう言って私の目の前のお皿を取り上げて、首を傾げた。
「利用ってそう言うこと?今すぐ部屋に来い!とかちょっと出てこいよとか………そういうのじゃないの?」
「たまたま今日はドーナツだっただけ。私のお皿返して」
私が伸ばした手より更に奥に、お皿を引く真希。
「どうなりたいの?付き合いたいとかじゃないの?」
わりと深刻そうな顔してるけど、彼女からは香ばしいパイ生地の匂いがしてる。
「付き合うとかより………今は少しでも繋がってたり傍に居たいだけ」
夢より思い出が大切になったのは、いつからだろう。
降りれるものなら、大人の階段を全速力で駈け降りたい。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2015年10月2日 19時