イカロスの鍵。 (ページ27)

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昨日の夜、真希とお喋りしすぎて夜ふかししてしまった。

事務所の入り口に誰が持って来たのか「みなさんでどうぞ」とメモが添えられた棒つきの飴のツリーが置いてある。

「んー………」

食欲より睡眠欲を優先して、昼休みは仮眠をとることに決めた。

衝立の中を覗いて誰もいないのを確認してから、置かれていた資料を端に寄せて

机にベッタリ左耳と左頬を付けて“おやすみモード”に入る。

「天高く馬肥ゆる………」

窓の向こうは、澄み切っていて紡いでる途中の糸みたいな雲が流れてる空。

外でお昼寝したら気持ちいいだろうなと目を閉じて暫く経った頃、人の気配を感じた。

薄目を開けた私の真ん前に、見覚えのあるジーンズ。

隆二さんだ………

すぐ近くに立ったままの彼は、カサカサと紙の音をさせている。

何をしているのか見たいけど、顔を上げる勇気がなかった。

話しかけたら私の唇が冷めていないことが彼にバレそうで、また目を閉じる。

どれくらいそうしていたか、ギィッと軋む音をさせて彼が私の隣の椅子に座った。

咳払いと紙を捲る音、それからカラコロと………何の音だろ。

全神経を右耳に集中させて、彼から発せられる音を聞き漏らさないように。

朝晩の寒暖差で喉の調子が良くないのかな……紙を捲る音は、さっき端に寄せた資料………。

“カラコロ”の正体が気になって仕方なくて、また薄目を開けた私の目の前に

今度は彼の顔があった。

「わっ……」

思わず目をパッチリ開けてしまった。

「やっぱり起きてた」

彼は自分の腕を枕にして、私と同じように“おやすみモード”の体勢でそう言った。

彼の顔を間近で見て、カラコロは例の飴を口の中で転がしてる音だと、やっと分かった。