2 ページ14
・
メニューの端から端まで見てみたけど、蟹のパイなんてこの店にない。
「騙された、岩田さんに騙された騙された………」
「ちょっ、A」
手で顔を隠しながらA子が私に話しかけてきた。
「ねぇ!パイないんだけど!だいたい、良い奴とかって何人か顔見知り居るじゃん!」
同じように顔を隠して私も喋る。
端から見れば深い悩みを抱えた二人。
「私だってこんなに事務所の人が居るとは思わなかったよ!」
向かいの左から事務所の人、事務所の人、知らない人、事務所の人、知らない人。
「岩田さんは社内恋愛を斡旋してるの?」
「そーだよ!絶対そーだよ!」
「ねぇ、あっちのカウンターで二人で飲まない?」
「そうしよっか!」
そーっと席を立とうとした時「あの」とA子が声をかけられた。
事務所の人じゃない、初対面の男の人に。
私のことを気にするみたいに見上げた彼女に「ちょっと電話してくるね」と笑顔で答えた。
きっかけはどうであれ、出会いは大切にしなければならない。
選ぶほうから選ばれるほうになる前に。
店のウェイティングルームに座った私は、何を調べたいわけでも誰に連絡取りたいわけでもないのに、携帯をギュッと握りしめていた。
今帰ったら、岩田さんに悪い。
思い切って、急な予定を作ろうかな………だけど
平日の夜10時。
誰かを誘うには躊躇する時間。
黙って帰ったら岩田さんに悪いし、予定も作れない
でも新しい出会いが欲しいわけじゃない。
好きになったら、その人しか見えなくなる
悪い癖だと分かってる。
1342人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぽち。 | 作成日時:2015年10月2日 19時