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メニューの端から端まで見てみたけど、蟹のパイなんてこの店にない。









「騙された、岩田さんに騙された騙された………」









「ちょっ、A」









手で顔を隠しながらA子が私に話しかけてきた。









「ねぇ!パイないんだけど!だいたい、良い奴とかって何人か顔見知り居るじゃん!」








同じように顔を隠して私も喋る。








端から見れば深い悩みを抱えた二人。








「私だってこんなに事務所の人が居るとは思わなかったよ!」








向かいの左から事務所の人、事務所の人、知らない人、事務所の人、知らない人。









「岩田さんは社内恋愛を斡旋してるの?」









「そーだよ!絶対そーだよ!」








「ねぇ、あっちのカウンターで二人で飲まない?」








「そうしよっか!」









そーっと席を立とうとした時「あの」とA子が声をかけられた。








事務所の人じゃない、初対面の男の人に。








私のことを気にするみたいに見上げた彼女に「ちょっと電話してくるね」と笑顔で答えた。








きっかけはどうであれ、出会いは大切にしなければならない。









選ぶほうから選ばれるほうになる前に。








店のウェイティングルームに座った私は、何を調べたいわけでも誰に連絡取りたいわけでもないのに、携帯をギュッと握りしめていた。









今帰ったら、岩田さんに悪い。







思い切って、急な予定を作ろうかな………だけど









平日の夜10時。









誰かを誘うには躊躇する時間。







黙って帰ったら岩田さんに悪いし、予定も作れない








でも新しい出会いが欲しいわけじゃない。









好きになったら、その人しか見えなくなる









悪い癖だと分かってる。

3→←その日の終わり頃。



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作者名:ぽち。 | 作成日時:2015年10月2日 19時

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