2 ページ24
・
「よかったら皆さんでどうぞ」
事務所に戻って、お土産を掲げて告げたら、フロアのみんなからのお礼が飛び交った。
「どこ行ったの?」
岩田さんがお土産を覗きこむ。
「水族館?どうだった?」
「あのー……サメが凄かったです」
「へぇー!俺も今度行こう」
「誰とですか?」
「え?」
え?とか言いながら春が来たみたいな顔してる。
良いな、どういう関係か明白な相手が居る人は。
「あの泣いた一件はどうなった?」
岩田さんが小さな声で訊ねながら、会議スペースを指差した。
「あれ、覚えてたらしくて」
「あー、やっぱり」
二つ並んだ椅子を見たら、此処で嗚咽を漏らした日が遠い昔に感じた。
「やっぱり!?」
「そんなさぁ、記憶飛ぶ位酔っててさぁ出来るわけないじゃん」
「それもうちょっと早く言ってもらいたかったです……」
「………相手、隆二さんでしょ?」
「………違いますよ」
「だって絶対そうだもん」
「だって絶対違うんだもん」
「じゃあ隆二さんに今すぐ此処で相談してみてよ。犬に噛まれて泣いた話」
「………嫌です」
勝ち誇ったような岩田さん。
「何で臣さんは全部知ってんの?俺だけ仲間外れ?」
「臣さんが送れって言ったから今こんな事になってるんです」
「主犯格じゃん。まぁこうなるとは思ってなかっただろうけど。で?好きとか言った?」
「言う予定もないです……」
今なら、このポジションで側に居ることが出来る。
物凄く曖昧で良くない関係なのは分かってるけど。
「好きです」なんて言ってフラれたら、それも叶わなくなる。
もし付き合えるようになったら?
上手く行けば幸せだろうなと思う。
でも、別れてしまったら友達でも仕事仲間でもなく、他人になるしかない。
彼の横にも、後ろにも居ることが出来ない他人。
それは、とても辛い。
1026人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぽち。 | 作成日時:2015年7月14日 17時