episode 3-12 ページ8
グリファスside
いっそ置いて帰ろうか。一瞬そう考えるが、こういうタイプは下手に泳がせていると勝手に暴走して此方の弱みになる可能性もある。
一度すぱっと諦めさせるべきだろう。となると、あの契約書が破壊できないことを思い知らせるか。
たん、と床を強く蹴った。勢いをつけてアズールに迫る。契約書を彼の手から強奪しようと手を伸ばす。指先が契約書に触れようとした寸前、ばち、と電流に似たものが爆ぜた。同時に生じた激しい斥力に手が弾かれる。飛び出してから弾かれるまでは一秒にも満たない、僅かな時間。だが、フロイドは即座に反応した。ぐわ、と彼の手が此方の喉元へと伸びる。
『おっと、危ないですねェ』
弾かれた勢いを利用し身を引いて躱す。そのままバックステップでジャックの隣へと戻った。
『なるほど、やはりあの契約書は
フロイド以外の者たちはまだこの数秒の間に起こったことを理解しきれておらず、唖然と立ち尽くしていた。
『さァハウルさん、如何です？ 強奪も破壊も無理……代わりに何か案をお出しして頂けるのならば、どうぞ』
「グルル……仕方ねぇ、一旦戻って仕切り直すぞ」
悔しげに唸ってはいるが、此方の提案を飲んでくれた。ジャックは地面に転がっている生徒たちを踏まぬように気をつけながら扉へと走る。
『それでは、ご機嫌よう』
くるりと振り返り、頭を深々と下げる。直ぐには上げない。ひゅ、と頭の上で空を切る音。
「逃げられると思ってんの？」
フロイドのハイキックが頭上を通過していた。頭をそのまま上げていれば丁度顔面にぶち当たったであろう軌道。契約書を盗ろうとしたのは完全に敵対行為だ。真っ先に状況を把握していたフロイドは此方を敵と認識したようである。
フロイドは上げた脚を踵落としの要領で振り下ろす。軽く身体を横に捻った。頬のスレスレを長い脚が通過する。勢いのついたそれを強引に引っ掴んだ。捕まえた脚を後ろに引いてバランスを崩させる。ガードが緩んだ左足に足払いを掛けた。フロイドは背中から床に叩き付けられる。
「ぐっ……！」
胸を強かに打ち付けたことでフロイドが呻く。
体勢を立て直される前に出ていくとしよう。助けに入ろうとしたのか、ジャックは駆け出そうとした姿勢のまま固まっていた。
『参りましょうか』
「お、おう」
ジャックが通過したのを確認してから扉を閉める。何やらイソギンチャク共の恨み節が聞こえたが、知ったことでは無い。
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作者名：カガチ | 作成日時：2022年12月9日 4時
