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3:妖の呪文 ページ6

その晩、常世の闇に溶け込むかのような黒船が浮かんだ。それも無数に。妖の種族の数に比例して浮かべられた船は、人間がこれ以上異変を起こす前にと流れるように出航されていた。


不気味なほどに静まり返った地上と、舞う砂、数えきれない程の飛行船。どれをとっても前例が無い異常事態だ。アズサ達の船も、かなりのスピードで上空へ飛んでいる。しかし上に飛んでも上に飛んでも一向に砂を交えた竜巻から抜けられない。
飛行する時間が一秒、また一秒と過ぎるにつれて船内にいる者達の不安が加速していく。




「……アズサ様、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう。そこに置いておいて」



誠は静かに紅茶をテーブルの上に置いた。その動作は心なしか震えていて、アズサは見逃さなかった。
不安は伝染するとはよく言ったもので、誠の緊張感が船の奥深くまで浸透しているのではないかと思ってしまうほどに船内は静まり返っている。


アズサは窓を見ながら紅茶に手をかけた。ティーカップに注がれた紅茶はそこが見えるほど綺麗に透き通っている。アズサがカップの中を覗くと、ハートの瞳孔が映った。



アズサの顔は晴れなかった。それは、彼女が妖の中でも階級の高い種族である人形(ドール)で、肌が異常に白いから。という訳ではないということだけは判っている。

しかし相変わらずアズサは美しかった。人形の中の人形。妖の中でも神に認められる程の高い知能と、目を見張るくらいの美しさと気品がある。妖においては見た目の美しさは必須。しかし人形は神には劣るものの、神に次ぐほどには美しいのだ。




砂が窓を打ち付けた。今の衝撃からか窓硝子にひびが入った。恐らく何度も砂によって打ち付けられているうちに小さな傷が広がったのだろう。



「きゃ!窓にひびが入って……」


侍女が悲鳴を上げた。たちまち使用人はその窓に近寄らなくなった。数名の使用人たちが、割れた時にとび散らないようにとカーテンや箒を持ってきている。中にはテープを持ってきている者もいた。

アズサは静かに立ち上がって、本棚に向かった。誠にはアズサがのうのうと本読もうとしているようにしか見えず、何でこんな非常事態に。と不満を持っている。




「退いてちょうだい」


瑠璃色の本を小さい手で持って、アズサは淡々と告げた。

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赤菊 藍(プロフ) - 逸さん» お褒めの言葉ありがとうございます。自分でもこの作品は好きなので感想を頂けてとても嬉しいです。三人称という今まであまり書いた事の無い小説ですので如何せん更新が遅くなるとは思いますができる限り頑張ります。最後まで読んで貰えるように頑張りますね。 (2019年5月6日 8時) (レス) id: cc808b1622 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 一瞬で世界観に浸ってしまいました、とても面白いです。好きなジャンルですし、赤菊さんが書く細かい描写や構成のおかげで読みやすかったです。更新楽しみに待っています。無理をなさらずに頑張って下さい、応援しています。 (2019年5月6日 5時) (携帯から) (レス) id: 44c32ecf85 (このIDを非表示/違反報告)
赤菊 藍(プロフ) - 旅人さん» そのような評価を頂き光栄です。この作品は色々と自分の可能性を広げようと試行錯誤しているものなので、やや更新頻度が遅めですが温かく見守っていただければ幸いです。素敵な感想ありがとうございました。 (2019年1月13日 8時) (レス) id: cc808b1622 (このIDを非表示/違反報告)
旅人(プロフ) - 描写がはっきりとしていてとても読みやすいです…!更新楽しみにしています! (2019年1月13日 1時) (レス) id: ec476d732d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:赤菊 藍 | 作成日時:2019年1月1日 1時

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