レンズ越しの景色【糸師凛】 (ページ8)

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気まぐれな猫ページ8

お昼休み、私は必ずと言ってここへ来る
人気のない校舎の影
そこに広がる芝生

立派な友達と言える子もいないため、ずっとここでお昼を過ごしてきた

そして、この時間になると絶対に⸺

『ぁ、おいで』

草むらで隠れたフェンスの穴の向こうから、黒猫がやってくる

唯一友達と言ってもいいのはこの子だけ。猫が友達なんて、おかしい話と笑われるかもしれないけれど

芝生の上に腰掛ける私の足に擦り寄る
その愛らしい様子が、たまらなく可愛い

その日あったことを、この黒猫相手に話す
でもそれでさえ、とても楽しい
今まで色のない私の学校生活に、唯一色を塗ってくれた。それがこの小さな友人である

でも今日のこの子何か違う。そわそわした様子で、中庭の方にかけていってしまった

『ぁ、待って！』

急いであとを追いかけると、一人の生徒のもとにたどり着く
中庭の中でも小さな木陰。顔は見えないけれど、誰かが横になっている

その誰かの上に、黒猫は座っていた
そして、その誰かの手が黒猫を優しく撫で、その手の中で気持ちよさそうにする

それに私は驚くことになる。この一年もの間、初めてなのだ。私以外になついているところを見るのは⸺

静かに近づいて様子を伺う

そして見えた⸺
それは紛れもなく、最近私の心に変化を与えている、糸師くんだった。

『糸師、…くん？』

そして彼のその綺麗な瞳と目が合う

「なんだ…昼寝の邪魔しに来たか……」

『ぇ、いや！そんな…違います。その子と一緒にいたんだけど、急に走り出すから追いかけてたらここについて…』

糸師くんは自分の上でくつろぐ猫を無言で見る
　

「…珍しいな。俺以外になついてんのか…お前」

普段私達に見せないような、そんな雰囲気の彼を見て正直目を奪われた
優しい瞳…糸師くんこんな顔するんだ…

そして私が見ているのに気づくと、いつものようなムッとした顔になり、起き上がる

そして猫の首根っこを掴んで運び、私の前に差し出す

「昼寝の気分が削がれた…。俺はもう行く」

渡された猫を自分の腕の中に抱え込むと、彼は行ってしまいそうになる

『あのっ…ごめん…なさい。お邪魔してしまって…』

俯いて糸師くんに声をかける。
すると私の腕の中の猫が私を見上げて一声鳴いた

　
「…………別に。お前が来たからじゃない」

こちらを見ずに吐き捨てた