熱の理由 ページ44
『ここまででいいから。じゃあ…ありがとう……』
私は別れをつげ、糸師くんの隣を抜ける
「………………んなよ」
ポツリと糸師くんの吐き捨てたような声
それと同時に、瞬時に腕が掴まれる
『っ……やめ』
「逃げんなよ…」
怒ったような、けれど悲しみを帯びたようなそんな声
そのどうしようもない声に、胸がきゅっとしめつけられた
どうして引き止めたりするの…
私のことが嫌なら糸師くんにとって好都合だというのに
『……糸師く⸺』
「思ってねぇ…」
見上げると、ぼやけたままの糸師くん
彼は向こうを向いたまま呟く
「迷惑なんて……思ってねぇ…」
『え…』
それはつまり…
さっきの私の言葉に対しての答え…と捉えていいのだろうか
『で、でも…あの時迷惑って…』
「あれはお前のことじゃねぇ…。あいつらが騒ぎ立てるから…それが迷惑だって言ったんだ…」
『そんな…』
ではあれは、私の勘違い…?
いやでも
まだ…まだ信じられない……
『でも興味ない…って………言ってたから…。私のことなんてどうでもいいんだって……。
迷惑ばっかりかけて、……さっきもうざいって……』
その言葉に糸師くんは押し黙る
ほら…やっぱり
迷惑だったのは私なんじゃないの…?
じわりと収まっていたはずの熱が、目元に再びこみ上げる
「しかたねーだろ…
あそこで興味ねぇって言わねぇとあいつら諦めがつかなくなる……」
あいつらの性格、わかってんだろ…と。
さすがに耳を疑った
頭でまとまりがつかない
つまりどういうこと…
あの場であんなこと言ったのは、口先だけ…ということなのだろうか
なんだろう…
今の糸師くんの言葉に、なんだか胸がくすぐったくなる
『糸師くん、どういうこと。わからな⸺』
"わからないよ。教えて。"
そう言おうとすれば、空いている方の彼の大きな手が私の口を覆う
「うるせぇ…もう追求すんな。ってかもうそんな顔でこっち見んな…」
彼に触れられている口元が、彼の手から伝わる体温のせいなのか
それとも私の体温のせいなのか
とても熱を持っている気がした
そしてその時、目をそらしながら言う彼の頬が少し色づいていたことも私は知ることはない⸺
25人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あれん | 作成日時:2023年7月17日 23時