危機一髪 ページ28
送ってもらう⸺
それはいいものの
『…』
「…」
ど、どうしよう…なんか…こんな時に限ってあんまり話題が出てこないや…
いつもは話したいことだらけなのに、いざこんな状況になればなかなかうまく会話ができない
『あの…、迷惑…じゃなかった…ですか？部活…見に行って』
我ながら下手な質問…。今すぐにでも取り消したい…。
『えっと…ごめんねっ。送ってもらうことになっちゃって…。糸師くん…もっと遅くなっちゃうよね、帰るの…』
「はぁ…。なに下手な会話してんだよ…」
こんな私を見て、呆れた顔をする糸師くん
そりゃあ、そう思うよね…
『う、うん…。すみま…せん…』
「そんなこと謝んな。俺が悪いみてぇだろーが」
その後も続く沈黙
一緒に帰れるのは嬉しい
これでうまく会話ができればなぁ…
必死に話題を見つけようと考え込む
友達のこと…部活のこと…家族のこと…
何かないものか…。
自分が気になる人との話題だ。
その時の私には、それだけで頭がいっぱいだったから気づかなかった⸺
「ぃ……。おいっ！！」
歩いていると交差する道
その脇道である通りから、下り坂だからなのか、かなりのスピードで自転車が自分めがけて下ってきた⸺
咄嗟のことで、もうぶつかるとしか考えられなかった時
自転車は爽快に走っていき⸺
地面には自分の荷物が散らばる
強い衝撃で地面に落ちる眼鏡
そんな私の体は気づけば糸師くんに背後から抱きとめられているような形になっている
咄嗟のその瞬間、糸師くんから強く腕を惹かれてその状態になったことに今更気づく
ぶつかりそうになり、下手すれば怪我をしていたかもしれないこの状況
普通なら、恐ろしくてバクバクとなるこの心拍
確かにバクバクはしている⸺
けれど私はどうして今こんなに呑気なことを思っているんだろう…
糸師くんの腕の中にいるこの状況
ひどく体が熱い⸺
こんなに、どうしようもなくドキドキしているなんて…
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作者名：あれん | 作成日時：2023年7月17日 23時
