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ページ8

前田君と話をしよう。
そう思って随分と前から彼を探しているのだが、一向に見つからない。
仕方がないので誰かに聞こう、変に絡まれない誰かに。
そう思って近くにある厨を覗いた。

「あっ、燭台切さん
前田君を知りませんか?」

「あぁ主
彼には今春の七草を摘んできてもらってるんだ」

「ということは、花畑の近くの畑ですね
ありがとうございます」

そう言って前田君の所へ向かおうとすると、
ぽん、と頭に大きな手が乗った。
不思議に思って振り返ると、何か言いたげな燭台切さんが私の頭を撫でていた。

「?
どうかしましたか?」

「………いや、なんでもないよ
しっかりやっておいで」

そう優しく笑ったので、
私はグッと体に力を入れて頷いた。

中庭を通過して、井戸の横を通って、狭い小路地をまっすぐ行くと、ぱっと一面の花畑が広がる。
春の日差しは暖かく、風は花の香りを運んでくる。
だから私は、春が好きだ。

芝桜が一面に咲き、片栗が時々混じっている。
紫や桃色の花びらが舞う向こう側に前田君の姿が見えた。

「前田君!!」

ビクリと肩を揺らし
下を向いていた瞳が、薄い栗色の髪の間からこちらをじっと覗いた。

「………私が、まだ受け入れられませんか」

そう問うが茶色がかった鋼色の瞳が冷ややかにこちらを見つめるだけで返事は返ってこない。


「私は、まだ主として認められませんか」

「僕達は、
何度も何度も痛めつけられ、折られる寸前まで何遍もいかされました。
それを、何度も見てきました。」

私にかぶせるように前田君はそう言った。
彼の言いたいことは痛い程わかっている。
だからこそ、本丸の皆んなとの関係も中々築けなかったのだ。
分かるからこそ、私は何も言えなかった。
そんな私に追い討ちをかけるように彼はそっと口を開いた。

「………僕はまだ、あなたを信用できません。」

唇をグッと噛んで俯いた。
私は、まだまだ未熟だ。
そんなことを思っていると、ザッと砂を踏む音が聞こえた。
はっとして顔を上げると前田君が駆け足で私と反対方向へ行くのが見えた。

「まって!!」

これ以上彼を引き止めて言うことなんて何も無い。
だがそっちは、
その向こうには

「前田君、足下!!」

その向こうには崖がある。
正確には崖と言ってもいいほどの“坂“。
一度転がればいくら刀剣男士といえど、大怪我は免れない。
彼は減速したが一瞬遅く、
体はぐらりと傾き、もう地面に着くというくらいでなんとか彼の腕を掴むことができた。

.→←前田藤四郎『遺品』



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さら - ありがとうございます!!全然待ってます!!試験頑張って下さいね!! 寒いのでお体には気を付けて下さい!! (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8178d9f7d8 (このIDを非表示/違反報告)
赤羽美亜(プロフ) - さらさん» コメント、リクエストありがとうございます^_^小説を書く活力になるので嬉しいです!今は試験勉強で忙しいので、落ち着いたら書いていこうと思います。元々私は不定期更新なので、気長に待っていてくださいね! (2019年11月6日 16時) (レス) id: d2d53eedb3 (このIDを非表示/違反報告)
さら - はじめまして!!刀剣乱舞の作品どれも大好きです!!このお話が終わったら、鶯丸さんと、へし切長谷部さんのお話書いてほしいです!! (2019年11月5日 23時) (レス) id: 8178d9f7d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:赤羽美亜 | 作成日時:2019年9月24日 20時

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