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私はその手を取ることしか出来ず、
だが、彼に触れられたことの喜びが私の心をじわりと温めた。

彼が鳥居を跨いだ時、私は彼を少し引っ張った。


「わ、私……ッ」


そこまで言った時、兼は唇に人差し指を当てた。それ以上言うなと。そういうことだろう。

彼の手は私から離されていて、あぁ、終わったなと、そう思った時
彼は何処からか1本の綺麗な簪を出し、私の髪にそっと刺した。

「似合ってる」

そう優しく笑って言い、私の髪をそっと撫でた。
そのすぐ後にぼそりと呟くように
「………悪ぃな」
と申し訳なさそうに、どこか苦しそうに顔に影を落とした後、彼は私の頭を引き寄せた。

1秒程唇が重なった後彼は静かに私から体を離した。
簪の意味も、呟いた謝罪も、キスされた意味も分からなくて、一歩、二歩と後ろ向きに下がった彼を引き止めるべく、私は待って!と鳥居を抜けた。

伸ばした手は空を掴み、目の前には誰もいない。
あ、れ。私、なんで
なんで1人で祭りに行ったのだろう。

ふと髪に見覚えのない簪が刺さっていることに気がついてすっと抜いて見てみると、
それは月の明かりが当たってキラキラと美しくて、何故か私の胸を締め付けた。



もう二度と会えない。

誰に?

分からない。

けれど恋焦がれた、大切な人。



私はその場にへたり込み、大声で泣いた。
メイクが崩れるのも、編んだ髪が解れるのも、もうどうでもよかった。

此処が誰もいない神社でよかった。
湿度の高い蒸した夏風が、私を撫でるように一度だけ吹いた。





学校の授業はとても退屈だ。
開け放たれた窓から風が教室に入り、パラパラと教科書がめくられる。

全く悪質な悪戯だ。
私はその元凶の窓の外に顔を向けた。
どこまでも広がる青空に大きな入道雲が浮いている。

私の髪を靡かせる風はプールの塩素の匂いがする。
あぁ、好きだなぁ
なんて。何が好きなのかもよく分からないが。

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さら - ありがとうございます!!全然待ってます!!試験頑張って下さいね!! 寒いのでお体には気を付けて下さい!! (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8178d9f7d8 (このIDを非表示/違反報告)
赤羽美亜(プロフ) - さらさん» コメント、リクエストありがとうございます^_^小説を書く活力になるので嬉しいです!今は試験勉強で忙しいので、落ち着いたら書いていこうと思います。元々私は不定期更新なので、気長に待っていてくださいね! (2019年11月6日 16時) (レス) id: d2d53eedb3 (このIDを非表示/違反報告)
さら - はじめまして!!刀剣乱舞の作品どれも大好きです!!このお話が終わったら、鶯丸さんと、へし切長谷部さんのお話書いてほしいです!! (2019年11月5日 23時) (レス) id: 8178d9f7d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:赤羽美亜 | 作成日時:2019年9月24日 20時

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