指先と生け贄〈弐〉【両面宿儺】

諸行無常 ページ50

No,Side.











……時は遡り、数日前のこと。




＿＿＿＿＿＿＿＿＿京都府立呪術高等専門学校









「……宿儺の器が死んだか」






白く伸びた顎髭に、シワのある肌。


背を丸めたまま呟いた老人は、持っていた一枚の書類を机の上に伏せた。



……楽巌寺嘉伸。京都府立呪術高等専門学校の学長を務めている男である。




呪術界の上層部が両面宿儺の器である「虎杖悠仁」の存在を懸念していたのはもちろんのこと、保守派筆頭のこの男が先の少年院での出来事に関与していたのは言うまでもない。


世襲を重んじ、変革よりも保身を先立たせる保守派。

上層部というのは、そんな古臭い考え方を捨てきれない嫌な大人達の集まりなのだ。





……しかし現在、五条悟を軸として呪術界のバランスが大きく乱れていることは確か。


昨年起きた未曾有の呪術テロ事件「百鬼夜行」での乙骨憂太の活躍然り、新たに現れた規格外の存在である「両面宿儺の器」。



上層部にとって変革とは、自らの地位を揺るがす“脅威”でしかない。


そしてその脅威は、器亡き後も宿儺の遺したもう一つの規格外により湧き続けていた。






「残すは姉……虎杖Aを殺すか否か」






自らの物とは異なる宿儺の呪力に適応した、特異点の少女。



彼女は今、真実への道を確実に歩みその意味を知ろうとしている。



……羽化を始めた蛹から産まれるのは、昼を美しく舞う蝶か、はたまた妖しく夜に紛れる蛾か。




その羽をむしり取ることが吉か凶かは、この世の誰にも分からない。



世界は常に変化し、目まぐるしく移り変わるものである。



そんな諸行無常の世の中に生み落とされた一つの異質な存在が、これから先どんな進化を遂げるのか。








……人々はこの進化を経て、善悪に二分することだろう。








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