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あの後、腹の裂ける痛みと共に意識が途切れてからのことは何一つ覚えていない。


私が次に目覚めた時には、昨日開けたままだった窓の外から可愛らしい小鳥の鳴き声がひっきりなしに響いていた。






『……傷が、無い』






重だるい体をベッドから起き上がらせながら、私は昨日アイツに裂かれた腹部を確認するが傷痕一つ残っていない。

加えて、ボロボロになったはずの部屋着にも損傷は無かった。


まるで夢なのではないのかと思わされる一連のできごと。


しかし、唇に残る感覚と血の匂いだけは妙にリアルだ。






『はあ……今何時だろ』






私はそんな記憶に蓋をするよう、傍らに落ちていたスマホへと手を伸ばす。


画面をつければ【6:32】という数字が現れる。通りで外を見てもそれほど日が高くないわけだ。


……そう言えば、昨日の夜みんなでステーキを食べている時、五条先生に今日のことについて聞いていたんだ。

確か私は、8時までに職員室に来て欲しいと頼まれていた気がする。


まだ時間は1時間弱も残されている。それまでに身支度を済ませられるように努力しなくては。



思い立ったら即行動ということで、私は着ていたグレーの部屋着用ワンピースを脱ぎ捨て、昨日ぶりのセーラー服へと着替える。


この学校は見たところ融通が効きそうだ。だから今日からはいつもより濃い化粧をしてもたぶん怒られないだろう。


ベースメイクはしっかりめに。瞼には大人っぽく仕上がる薄めのブラウンシャドウを軽く乗せて、睫毛はビューラーとクリアマスカラでふんわりと仕上げる。






『ん、悪くない』






最後に、鏡を見ながらリップを塗る。制服に赤色が入っているから、暗くなりすぎない柔らかめのテクスチャーのティントで淡く彩った。


まあ、このくらいが妥当だろう。ナチュラル過ぎず、かと言って盛り過ぎず。

それに、このくらいの濃ゆさのほうがロングスカートを着こなすのにもちょうど良い。



面倒事を背負いすぎた私にとって、こういうなんでもない時間は何よりもの癒しになる。



……せめてこんな日常が、少しでも長く続きますように。







『……なんてね』






そう心の中で願うことくらい、許して欲しい。







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いか焼き - さ い こ お です!この話マジですこ… (2022年7月4日 2時) (レス) @page50 id: 5bb1efd8a4 (このIDを非表示/違反報告)
すみれちゃん - 続編決定…!ありがとうございます泣 (2022年2月27日 1時) (レス) @page50 id: 1871179020 (このIDを非表示/違反報告)
AG2(プロフ) - タイトルに目を惹かれ読んでみたらめちゃくちゃ面白かったです……!今後どうなるかとても楽しみ……!更新頑張ってください!! (2022年2月8日 7時) (レス) id: 382d4af167 (このIDを非表示/違反報告)
ハリネコ - 更新してくださる事が嬉しいですっ!これからも、作者さんのペースで頑張って下さい! (2022年2月3日 23時) (レス) @page27 id: 690aee62a7 (このIDを非表示/違反報告)
mithukoaaa0306(プロフ) - 面白すぎて一気に読んでしまいました! (2022年1月30日 2時) (レス) @page8 id: 96b8b42efc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年1月29日 15時

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