指先と生け贄〈弐〉【両面宿儺】

お化けトンネル ページ34

·










「今回君達に任された任務は、トンネル内に住み着いた呪霊の処理。この時期になると心霊スポット巡りが盛んになってくるから、色々と面倒なんスよね」






車を運転しながら、後部座席に座る私と狗巻くんにそう告げた金髪の女性・新田明さんは、今回私達のサポートをしてくれる補助監督だ。

その喋り口調や容姿からは、どことなく若さが伺える。



私は狗巻くんの隣で予め渡されたタブレット端末に目を通しながら、鏡に映る彼女の瞳へと視線を移した。






『心霊スポット……よくある話ですね。やっぱり、そういう所には呪いがたまりやすいんですか？』


「そうっスね。嫌な話っスけど、人がそこに畏怖すればするほど、その分呪いもウジャウジャ湧くんスよ」






端末に映し出された画面をスクロールしながら、今回の任務の概要を詳しく読んでいく。


夏になれば、テレビによく流れている恐怖映像100選なんて題した嘘くさい心霊バラエティ番組。


今では動画配信サイトでもその手の話題をとりあげるクリエイターが多い世の中だ。

そんな時代の流れに沿って、呪いも増すばかりなのだろう。






「噂の大元は、よくある書き込みサイトへの体験談が始まりらしいっス。なんでも深夜2時過ぎにそのトンネルの前で車のハザードを焚くと、窓の外からコンコンと何者かにノックされるような音が聞こえるとかなんだとか」


『でも、思ったより普通ですね。味気ない怪談話じゃないですか』


「まあ、あくまで大元っスからね。そこから話に尾ひれがついて、都内有数の心霊スポットになったみたいっスよ」






……やはり噂話とは末恐ろしい。出処がなんであれ、真相は人々の匙加減でいくらでも肥大する。


今回は大事に至るほどの被害がまだ出ていないから良いが、この噂一つによって死人が出ていたらとんでもないことだ。

しかし現に、日本各地ではそんな事例がぽんぽん起こっているわけで、その都度呪術師達が色んな場所を訪れていることは確か。






「しゃけ」


『へえ、狗巻くんもこの話聞いたことあるんだ。それだけ有名な場所ってことね』






最近の中高生は、特にこういった話題に敏感だ。


そんな彼らが己の感情から呪いを生み出していると知ったら、一体どんな顔をして驚くのだろうか。






·

旧道→←まどろみ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す