弐拾参 ページ25
頬に伝わる、ほどよい体温。
久しぶりに感じた人肌の温さは、まるで私の幼心をくすぐるようだった。
『鋼鐵塚さん……?』
本当に、彼はどうしてこうも行動に突拍子がないのだろう。
あの夜もそうだったが、彼は自分のことを棚に上げるのに対し、私にはいとも簡単に触れる。
加えて、そういう時に限って彼は冷静で。だからこそ、お面の向こうに隠された意図が酷く気になってしまうのだ。
「安心しろ、言われた物はあいつらに渡しておいてやる」
そう言うと、彼はこちらの気持ちなんて何も知らないかのように動揺する私の頬から手を離した。
チリンと鳴り響く風鈴と共に向けられた背は、まるでいつかの記憶と重なる。
……遠くなる背中を見送ることは、こんなにも寂しいことだったのか。
私は小さくなる風鈴の音を聞きながら、ふとそんなことを思った。
『……何よ。恋しがって、馬鹿みたい』
もう久しく忘れていたつもりだったのに、この感情は一体どこから湧いて出たのか。人肌の心地良さも、別れる時の虚しさも、やはり思い出すものではない。
他人と深く関わらないことで自分が傷かないのであれば、無関心も都合が良いと思っていたのに。
私の周りの人間は、どうしてそれを許してくれない人達ばかり集まるのだろう。
______君は目を離すとすぐにどこかへ行ってしまいそうだから、出かける時は手を繋ぐようにしよう。こうしていれば、僕も安心だ
______私ね、あなたとお友達になってその悲しみを分かち合いたいの……失ったものの寂しさは、人との繋がりで埋めていくものだと思うから
……そんな優しい言葉を残して、みんな私の傍から消えてしまった。
私が愛しいと思えば思うほど、まるで砂のように手のひらからこぼれ落ちていく。
その命は虚しいほどに儚すぎて、いつしか一つの命を愛することさえも恐ろしくなっていた。
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雨と雫(プロフ) - あゝもう文才が神ですね!?更新頑張ってください!個人的に夢主ちゃん可愛いな (7月1日 19時) (レス) @page6 id: 312a1378ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀛 | 作成日時:2023年7月1日 16時