弐拾 ページ22
「______食え」
皿の上に目一杯盛られているのは、十数本のみたらし団子。
運ばれてきたそれをこちらに差し出した鋼鐵塚さんは、机に肘をつきながら私の様子を伺っているようだった。
「……お前、団子は嫌いか」
『い、いえ……好き、ですけど』
「なら早く食えよ。ほら」
彼は皿から団子を一串とると、それを向かいに座る私の口元へと持ってくる。
ここまでされると、周りからの突き刺さるような興味の視線を気にしている余裕はない。
結局私は意を決して、差し出されたみたらし団子に大きな口を開けてかじりついた。
「うまいか」
『……お、おいひいれす』
口の中に目一杯広がった甘塩っぱいみたらしの味を感じながら、私は目の前に見えるひょっとこのお面を見つめる。
あの後、突然屋敷にやってきた鋼鐵塚さんに連れてこられたのは、街にある有名な甘味処だった。
もちろん、道中特に変わった会話があったわけでもなく。
店に着いて早々、鋼鐵塚さんが山盛りのみたらし団子を頼んだことによって今に至る。
「そうか……なら良い」
彼は私の言葉に満足したのか優しげな声で呟くと、自身もまた同じようにみたらし団子を頬張り始めた。
……ずらされたお面の端から見える、微かにゆるんだ口元。
『鋼鐵塚さんは、みたらし団子がとてもお好きなんですね』
なんとなく前より素直そうなその雰囲気だったため思ったのだが、どうやら間違いではなかったらしい。
彼は前に会った時みたく、一瞬だけ肩を浮かせるようにして固まった。お面をしていると表情が分からない分、彼は動作に全て出してくれるのでありがたい。
「……なんだよ。好きじゃ悪いか」
『いいえ、そんなことないですよ。好物があることは素敵なことです。それを食べている時は、誰だって幸せな気持ちになれるでしょう?』
幸福だけで溢れている世の中なら、好きなものを食べたところでそれを真新しく幸せだとは感じないかもしれない。
そう考えると、不幸せも少しはマシに思えるような気がした。
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雨と雫(プロフ) - あゝもう文才が神ですね!?更新頑張ってください!個人的に夢主ちゃん可愛いな (7月1日 19時) (レス) @page6 id: 312a1378ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀛 | 作成日時:2023年7月1日 16時