蛍の花嫁【鬼滅の刃】 (ページ14)

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拾弐ページ14

でこぼことした木彫りの面に触れながら、その下にあるだろう彼の顔を思い浮かべる。

素顔だけで見れば、私の友人である派手好きの男よりも女性的で整った顔立ちをしているだろう。お面を外していれば、色恋に飢えた町娘なんて嫌というほど寄ってくるはずだ。

性格くらい上手く繕ってしまえばいいのに、彼は私が思っている以上に不器用な人らしい。

「か、勝手に触るな……！」

そんなことを悠長に考えていると、私の手は再び彼により払われてしまい、手先に感じていた木材の感覚はあっという間にとおのいた。

確かに、衝動に任せて触れたのは少し不躾だったかもしれない。

『あら、ごめんなさい。眺めていたら、つい外してみたくなってしまって』

……それにしても、この人は他人と関わることにどこまで慣れていないのか。私の好奇心からの行動にもここまで大げさに反応するなんて、よほどこういうことが苦手なのだろう。

人との距離感というのは、やはりいつまで経っても分かりにくくて難しい。私は縁側から覗く夜空へと目線を移しながら、心の中で他人事のようにぼやいた。

「……お前は、どうして鬼殺隊を辞めたんだ」

それからしばらくして、最初に長い沈黙を破ったのは彼の方だった。

ずっと下を俯いたままだった鋼鐵塚さんは呟くような声で私にそう問いかけると、顔を上げでじっとこちらを見つめてくる。

その姿はただ純粋に、私の好奇心をくすぐった。

『任務中に負った怪我が原因です。運悪く鬼の扱う術にかかってしまい、次に目覚めた時には歩けなくなっていました。もちろん、今はもうだいぶよくなりましたが』

ちゃんと言葉に出したのは、一体いつぶりだろう。聞かれないから言わないのは当たり前だが、心の奥底ではあまり語りたくなかったのかもしれない。

それを知り合って数時の男性(ひと)に喋っているのだから、これもまた随分とおかしな話である。

鋼鐵塚さんは相も変わらず、黙りこくったまま私の話を聞いているようだった。

『たまに足に麻痺が出ることはあっても、日常生活には差し支えないんですよ……それも、この里の温泉のおかげでしょうか』

そんな私の問いかけに、彼からの言葉が返ってくることはなかった。

辛気臭い空気にしてしまったことが酷く申し訳なくて、微妙な気持ちになった私の顔は、どれくらい引きつっているだろうか。

……そう思った矢先、不意に頭の上へと優しい重みがかさなった。