拾伍 ページ17
……結局、その後鋼鐵塚さんとは会えずじまいのまま屋敷へと帰宅してから数日。里の方からこれといった報せが届いたわけでもなく、ただ穏やかに日常は過ぎている。
「はい、今回の健診も特に異常無しです。足の麻痺もひと月ほど出ていないようですが、お薬は一応出しておきますね」
目の前にある椅子に腰掛け、美しい所作でカルテを記入しながら私にそう語りかけた女性。
医学に精通している彼女は私が怪我を負ってからというもの、毎月こうして定期的に経過を診てくれていた。
『いつもありがとう、しのぶちゃん。お陰様で身体も随分良くなった気がするわ』
「いえ、私は元気になるためのお手伝いをしているまでです。ここまで回復できたのも、Aさんの気力があってこそですよ」
にっこりと向けられた微笑みに、今は亡き友人の面影を重ねる。
「彼女」の死からおよそ四年、年月は確かに色んなものを変えてしまった。
しかし、その細部には判然たる変化から逃れたものもあったりして、それを見つけるたびに私は少しだけ救われたような気分になるのだ。
『はあ……久しぶりにしのぶちゃんの顔が見れたら、なんだか安心して疲れちゃった』
「あら、せっかく湯治に行ってらしたのに。里で何かあったんですか?」
私は気疲れする要因になった里での出来事を、ぼんやりと頭の中に思い浮かべながら深いため息を吐く。
もちろん、何かがあったどころの話ではない。里で過ごしていた時から今日に至るまで、誰かに話したくて話したくてたまらなかった。
だからこそ、互いに一番心を開ける関係であろう彼女には、今まで溜まりに溜まっていた気持ちを包み隠さず吐露しても良いんじゃないか。
……そう思い、口を開こうとした矢先のことだった。
「______おい禿樹ッ!!!お前、嫁に行くって本当なのかあ!?」
派手好きの元忍びが、診察部屋の扉を破るようにして飛び込んできたのは。
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雨と雫(プロフ) - あゝもう文才が神ですね!?更新頑張ってください!個人的に夢主ちゃん可愛いな (7月1日 19時) (レス) @page6 id: 312a1378ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀛 | 作成日時:2023年7月1日 16時