episode９ ページ10
*９*
壮馬くんから言われた時間にはまだ早かったけれど、家でじっとしてもいられなくて、タクシーを呼んだ。
家の前から、約束の店まで、夜のすいた道をタクシーは走る。
店に到着し、名前を告げると、「うかがっています」と奥の個室に通された。
――さすがに早すぎた。
コーヒーだけ注文して、自分を落ち着かせるために、読みかけの本を開く。
ほとんど内容が頭に入らないまま、なんとなくページをめくっていく。
３０分ほどすると、壮馬くんがやって来た。
私を安心させるためか、優しくニコッとほほえむ。
壮馬くんのコーヒーも運ばれてきた。
「待って。飲みかけだし、冷めちゃってるけど、壮馬くんはこっちを飲んで」
壮馬「A、どうしたの？ わかるように説明して」
私は、さきほどの彼氏とのやり取りを話した。
壮馬くんは黙って聞いている。
「壮馬くん、ごめんなさい。私、壮馬くんの声だけは守るから。そのためならなんでもするから」
壮馬「A、大丈夫。おれは気をつけるから。だから、そんなに泣かないで」
壮馬くんの前でこんなに泣いたのは初めてだった。
そして私は、「もう壮馬くんには会わない」と伝えた。
かばんを持って席を立つ私のそばに壮馬くんが近づいてくる。
「壮馬くん、今までありがとう。楽しかった。……大好きだったよ」
壮馬「A……」
壮馬くんは手を伸ばして、私の涙をぬぐおうとした。
「さわらないで！」
壮馬「……」
「忘れられなくなっちゃうから……」
壮馬「最後にキスしたい」
「できない」
壮馬「Aにキスしたい」
「キスしたら、離れられなくなっちゃう……」
私は逃げるように、壮馬くんを置き去りにして店を出た。
やっぱり月のない薄暗い夜。
せめてきれいな満月が見えたり、壮馬くんの好きな雨が降っていたらよかったのに。
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月時雨（つきしぐれ）(プロフ) - 詩奈さん» コメントありがとうございます。読んでいただけた上に、コメントまでくださって、本当に嬉しいです。はらはらを乗り越えて、良い読後感になっていたとしたら幸いです。 (2021年7月28日 8時) (
レス) id: e3ea42d451 (このIDを非表示/違反報告)
詩奈(プロフ) - お疲れ様でした！読んでてはらはらすることもありましたが、2人のトゥルーエンドで良かったです！ (2021年7月27日 22時) (レス) id: 67cdd7411b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月時雨（つきしぐれ） | 作成日時：2021年7月17日 19時
