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episode8 ページ9

*8*


ちょっと疲れてるからと言ったのだけれど、ある夜、彼氏が私の部屋にやって来た。

月の出ていない、なんだか薄暗い夜だった。

いっそ、別れ話をしてしまおうか。

親に怒られるだろうな。彼氏のご両親に、うちの親が頭を下げるんだろうな。

でも、壮馬くんの瞳をまっすぐに見つめて、「あなたが好きです」と言えるんだろうな。




マンションにやって来た彼氏は、いつものように「お疲れ」と笑顔で言って、「はい」と私にA4サイズの封筒を渡した。

最近、よくあることだ。結婚式場のパンフレットをこうして渡されることがある。

封筒の中身を取り出し、私は固まった。

壮馬くんと私が並んで歩いている写真、それから報告書のような文書には「斉藤壮馬」だとか「声優」だとか書かれている。




彼氏「A、こいつと浮気してんだってな」

「……」

彼氏「今すぐ別れろ」

「……」

彼氏「まさか本気で好きだとか言わないだろうな? ……なんだよ、声優? 声が好きなのか? ……俺が薬剤関係の仕事してること、忘れてないよな? そいつののどをつぶす薬だって手に入るんだからな。それくらいのことしないと気が済まねーよ」

「待って! お願い、壮馬くんの声だけは!」

彼氏「なんだよ、『壮馬くん』? 笑わせるなよ」




荒々しくドアを閉めて彼氏は出ていった。

どうしよう。とにかく連絡を……。

けれど、何度かけても壮馬くんは電話に出ない。

まだ仕事中なのかもしれない。

一般人が、そう簡単に近づけるとは思えないけど、早く伝えないと。

携帯の着信音が鳴る。壮馬くんが折り返しかけ直してくれたのだ。




「壮馬くん!」

壮馬『A、どうしたの? そんなに慌てて』

「壮馬くん、あんまり面識のない人、ううん、よほど面識のある人でも、人からもらった飲み物とか食べ物とか口にしないで!」

壮馬『えっ』

「今すぐ会えない?」

壮馬『えっと、まだ仕事中なんだ。終わったら、Aの家の近くまで行こうか』

「だめ、私が行く」

壮馬『じゃあ、初めてふたりで食事した店で待ってて』

「わかった。壮馬くん、夜でもよく歩いて帰ったり散歩したりするけど、暗いところをひとりで歩かないで。お願い」




私の様子から、壮馬くんもなにかを感じ取ったようだった。

わかったと言って、「Aも気をつけて」と私の心配までしてくれた。

壮馬くんの声だけは守りたい。

私には、なにがあってもかまわないから。

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月時雨(つきしぐれ)(プロフ) - 詩奈さん» コメントありがとうございます。読んでいただけた上に、コメントまでくださって、本当に嬉しいです。はらはらを乗り越えて、良い読後感になっていたとしたら幸いです。 (2021年7月28日 8時) (レス) id: e3ea42d451 (このIDを非表示/違反報告)
詩奈(プロフ) - お疲れ様でした!読んでてはらはらすることもありましたが、2人のトゥルーエンドで良かったです! (2021年7月27日 22時) (レス) id: 67cdd7411b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:月時雨(つきしぐれ) | 作成日時:2021年7月17日 19時

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