18 甘辛いキス ページ19
「キルア……ねえ、キルアってば」
帰ってきた彼はわたしの声が聞こえてないみたいに横をすり抜けて、遠くの方にフラフラ行ってしまう。魂が抜かれたみたいな顔で、ゾッとする。それでも追おうとするとレオリオに止められた。
ボドロさんが死ぬ運命は免れた。わたしが身を挺して彼を守った。それ以上その白い手を血にまみれさせる必要はなかったから。そしてキルアは何もかもどうでもいいという顔でわたしを一瞥すると棄権を申し出た。周りの声をすべて無視して、試験会場から出て行った。
わたしは安っぽい恋愛ドラマみたいに、キルアの背中に向かって走る。もっと速く。もっと速く!走ってるせいなのか、なんなのか、苦しくて息がうまくできない。何か言ったところで何も変わりはしない。キルアを止められない。そんなことわかっていた。
「……待ってよ……置いて行かないでよ!」
「……」
「わたしとジャポンのお祭りに行くって約束したじゃん!」
「……」
「わたしの浴衣姿、見たくないの!?」
あ。転んだ。この年になって顔から転んだ。泣いていると影が降ってきた。キルアだった。しゃがんで、わたしを見下ろしてる。コンマ数秒の笑顔を見せたけど、哀しみで消え失せる。好きだの何だの言葉にしたら、オレはきっとだめになる。そう言うように、くちびるを重ねてきた。ちゅ、とちいさな音が鳴る。
なんでだろう。自分がキスされていると気づいたとき、視界が曇った。こんなにしあわせなのに、苦しい。あまくて痛い。目前のキルアの閉じた銀色の睫毛が、ぼやけて見えなくなる。こんなに近くにいるのに、どうしようもなく、遠い。
「……じゃあな」
まるで呪いだと思った。お前とはもう会わない。そう言ってわたしのなかに痕跡を残していく。ずるい。卑怯だ。最低だ。わたしだって、と思う。わたしだってキルアが好きだった。なんなら試験会場で出会う、ずっと、ずっと前から。瞬きすると涙になって落ちた。視界がクリアになる。
キルアはもうどこにもいなかった。
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有希(プロフ) - mayaさん» うわあああああ!!!!!(mayaさんへの感謝と次章を読んでいただける喜び)これからもどうぞ本作をよろしくお願いします! (2021年4月5日 20時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - フェルメルトさん» 初めまして、フェルメルトさん!コメありがとうございます。今後とも誤字脱字を見つけられたらソッと教えていただけると嬉しいです。 (2021年4月5日 20時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
maya(プロフ) - うわああああ(感嘆と次回への期待、そしてここまで書いてくれたことへの感謝の叫び) (2021年4月5日 20時) (レス) id: e6b38507b3 (このIDを非表示/違反報告)
フェルメルト - スミマセン!!一話のエラベーターってもしかしてエレベーターじゃないですか?ほんとスミマセン (2021年4月5日 17時) (レス) id: d6649fea10 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - ゾル家にやさしくされるよりぼこされたい、こんな猟奇的なユメショをリアルで好きだと言ってくれてホントに嬉しいです。弊社の夢主はゾル家に対してMなんで何されても喜びます。私個人としてもこの作品が大好きなので、どうぞ選挙編までお付き合いください! (2021年4月1日 21時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2021年2月11日 8時