25 あなたしかいない ページ26
声が喉に絡まる。首の後ろにジットリ嫌な汗をかく。何を食べているのかわからなくなる。食事用のナイフを握ったまま動けない。
「必要に迫られたなら……いえ、わたしには多分できません」
「素直な子だのォ」
ゼノさんは追求することはなかった。ああ失敗した。そう思った。味のしなかった料理がさらに味をうしなう。砂でも食べている気分だった。
*
翌日の午前7時。イルミさんの部屋の前でスタンバっていたけど、出てきた本人は驚いた様子もなくわたしを見た。
「一緒にダイニングに行ってもらいたくて」
「昨日連れてったじゃん。道覚えてないの?」
「広すぎるんですよ」
イルミさんはわたしの顔を見つめた。紙面上に均等に描かれたような黒い瞳からは、なんも汲み取れないけど、とてつもなく呆れているのはわかる。
「好きにしなよ。行き先は同じだし」
「やったぁ」
「なんでオレの部屋は覚えてるくせに、ダイニングの位置は忘れられるわけ?」
「唯一頼れる相手のいる場所なら覚えますよ、死活問題ですし」
イルミさんは不思議そうな顔をした。
「オレが頼れる相手?」
「……だってみんな、とりあえず殺してみるかって攻撃してくるから……」
「ふうん?オレがお前を殺そうとしないって言いきれるの?」
「わたしに興味を持っていて、キルアの成長の妨げない内は殺さないでしょう?」
イルミさんは逡巡するように瞬きした。ヒソカの発言、キルアの妙な動き、シルバさんの思惑が、彼の頭を巡っていることだろう。
「そうかもね」
断言しないところが恐ろしい。わたしの読みはあながち間違っていないのか、「行くよ」と、イルミさんは歩きだした。最近そうするみたいに、わたしの肩にぐっと腕を回して、手を添える。
「ひっ!!!」
「動かないで」
あなたが足を止めてくれない限り、それは無理な話なのですが。イルミさんはわたしに、同じ速度で歩くことを強要しながら、命をねらってきた。親指から小指までの間、きちんと4本の針がならんで光っていた。
「学習能力ないよね」
「それでも話せる相手、イルミさんしかいませんし」
そんなお喋りをしながら、石畳の廊下を抜けてゆく。燭台の炎が朧気に足元を照らしている。
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有希(プロフ) - mayaさん» うわあああああ!!!!!(mayaさんへの感謝と次章を読んでいただける喜び)これからもどうぞ本作をよろしくお願いします! (2021年4月5日 20時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - フェルメルトさん» 初めまして、フェルメルトさん!コメありがとうございます。今後とも誤字脱字を見つけられたらソッと教えていただけると嬉しいです。 (2021年4月5日 20時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
maya(プロフ) - うわああああ(感嘆と次回への期待、そしてここまで書いてくれたことへの感謝の叫び) (2021年4月5日 20時) (レス) id: e6b38507b3 (このIDを非表示/違反報告)
フェルメルト - スミマセン!!一話のエラベーターってもしかしてエレベーターじゃないですか?ほんとスミマセン (2021年4月5日 17時) (レス) id: d6649fea10 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - ゾル家にやさしくされるよりぼこされたい、こんな猟奇的なユメショをリアルで好きだと言ってくれてホントに嬉しいです。弊社の夢主はゾル家に対してMなんで何されても喜びます。私個人としてもこの作品が大好きなので、どうぞ選挙編までお付き合いください! (2021年4月1日 21時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2021年2月11日 8時