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170 大人の世界へGO ページ30

高級ホテルのラウンジなんて映画でしか見たことない。マネキンみたいにピシリと背筋を伸ばした男性スタッフに案内されて、びくびく付いていく。グラスに盛られたチョコレートを摘んでいる、あのワイレッドのドレスの女性の色気なんて一生かかっても出せない気がする。



「A」


 聞き覚えのある声にホッとする。イルミさんの声に安心する日がくるとは、人生なにがあるか
わからない。スタッフは当然のようにわたしのイスを引いて待っている。こわごわと腰かけるとイルミさんがすこし笑う。なんだか一挙一動が間違っていないか不安になる。


 イルミさんの横にあるグラスは半分ほど減っていた。アルコールですこし体温があがったのか、腰までとどく黒髪を掻きあげる。仕草ひとつに品がある。完全にここの空気に溶けこんでいて、棲む世界が違うひとなんだとあらためて思う。



「お飲み物をお持ちしました」



 コトンと目の前にグラスが置かれる。かぐとクランベリーの甘酸っぱい匂いがした。いつの間にか注文してくれていたみたいだ。こうも待遇がいいと怖くなる。ありがたくいただくけど。



「そういえばA、7年もどこで何してたの?」

「……もしかして心配してました?」

「そんなわけないだろ」

「ですよね。安心しました」



 いちばん端にあるナイフとフォークを手にとってサラダに口をつける。このドレッシング、今まで食べてきた中で最高にうまい。



「自分探しの旅に出ていましたよ。特に面白い話はありませんけど」

「Aのことだからムダにだらけてたんだろうね」

「う。そう言うイルミさんはどうなんですか?」

「オレはいろいろあったよ。婚約したりとか」

「……え」

「半年後には結婚するんだと思う」

「……わ、すごい、おめでとうございます。めっちゃビックリしました。どうぞお幸せに」

「ありがとう」



 イルミさんはさっさと話題を変えた。不気味なくらいの冷静ぶりから、その婚約は彼の積極的な気持ちによるものじゃなさそうだった。ちょうど年と価値観の近い暗殺者を見つけたから、身を落ちつかせるだけなのかもしれない。そんな勝手な想像をした。

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- 一気に読み切ってしまいました!楽しかったです!途中感情移入して泣いちゃうとこもありました笑更新楽しみに待ってます! (4月16日 21時) (レス) @page39 id: 46b1d29c13 (このIDを非表示/違反報告)
◎SaE(プロフ) - あなたの書く文章が大好きです。 (12月22日 11時) (レス) id: 5b13a1df84 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 更新待ってます。 (9月2日 23時) (レス) id: fdd6e06bf4 (このIDを非表示/違反報告)
こもれび(プロフ) - 有希さんと好みが似ているのか、好きなキャラや印象で近しいものが多くて共感しまくりです。こちらの作品を詠ませて頂くのは多分これが3度目なのですが、性懲りも無く毎度同じ場面で泣いてます。顔面が涙でぼろぼろです。言葉巧みな表現が大好きです。応援しています。 (2022年12月28日 4時) (レス) @page39 id: 4d4f4ab205 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる-ameizumi(プロフ) - 今出ているところまで読み切りましたがとて好きな文章構成や内容で、ところどころでほんとに泣いてしまいそうでした。終わりが見えてきそうですが最後まで応援しています。 (2022年12月23日 0時) (レス) id: 5d2780f034 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有希 | 作成日時:2021年11月14日 16時

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