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160 愛だの恋だの ページ20

「飛鳥川 淵は瀬となる 世なりとも
思ひそめてむ 人は忘れじ
……の訳は?」



 とつぜん指名されたヒロトくんは、三ヶ月前にやった和歌なんてもうすっかり忘れたらしい。教科書をめくって該当の箇所を探してる。


……飛鳥川は流れがはやいことで有名だが、同じように移り変わる世の中でも、想いを寄せたあなたのことだけは、決して忘れまい……でしょ。


 ばかばかしいぐらいまっすぐな愛の言葉。わたしがその意味を理解することはたぶんない。恋愛は基本的に妥協のうえで成り立っている。どうしてこの世にこんなに夫婦がいるんだと思う?映画みたいにどちらともなく惹かれ合ったから?そんなわけないよね。告白はノリで生まれるし、結婚は適齢期に出会った男性とするだけの儀式に過ぎない。運命の恋なんてファンタジーだ。本気で、そう思う。



「で、なんて言われてケンカしたの?」

「……俺のこと、そんなに好きじゃないだろって」



 友達と一緒に帰っていると、彼氏の話になった。あれから同じ部活の男の子と何となく付き合う流れになって、日常にそれなりの彩りが添えられてきた……のだけど、それもまた終わりを迎えそうだ。高校生の恋愛は短命だから仕方ないけどね。わたしはケンカした相手と綺麗に仲直りできた経験がない。あの最悪な夜12時の電話、いま思い出しても首の後ろに変な汗をじっとりかいてくる。



「好きなつもりだったんだけどなぁ。わたしなりに。バレンタインも手のこんだやつ渡したし」

「ちょっと女々しいタイプかもね」

「ね。重くてやになる」

「だけどさ、いつまでこんなの繰り返すつもり?Aはちゃんと好きになれないくせに、どうしてまた男の子と付き合おうとするの?」

「……どうして……」



 どうして。そう聞かれるとすぐには答えられない。わたしはまだ恋愛に期待してるの?もしかしたらわたしにもあの飛鳥川の歌がいつかわかるかもしれないと信じてるの?



 そのときだ。黒髪の女が曲がり角からわたしを覗いているのが見えた。わたしは「ごめん!用事あった!」と友達に一方的に言って、あの黒髪を追って走り出す。

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- 一気に読み切ってしまいました!楽しかったです!途中感情移入して泣いちゃうとこもありました笑更新楽しみに待ってます! (4月16日 21時) (レス) @page39 id: 46b1d29c13 (このIDを非表示/違反報告)
◎SaE(プロフ) - あなたの書く文章が大好きです。 (12月22日 11時) (レス) id: 5b13a1df84 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 更新待ってます。 (9月2日 23時) (レス) id: fdd6e06bf4 (このIDを非表示/違反報告)
こもれび(プロフ) - 有希さんと好みが似ているのか、好きなキャラや印象で近しいものが多くて共感しまくりです。こちらの作品を詠ませて頂くのは多分これが3度目なのですが、性懲りも無く毎度同じ場面で泣いてます。顔面が涙でぼろぼろです。言葉巧みな表現が大好きです。応援しています。 (2022年12月28日 4時) (レス) @page39 id: 4d4f4ab205 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる-ameizumi(プロフ) - 今出ているところまで読み切りましたがとて好きな文章構成や内容で、ところどころでほんとに泣いてしまいそうでした。終わりが見えてきそうですが最後まで応援しています。 (2022年12月23日 0時) (レス) id: 5d2780f034 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有希 | 作成日時:2021年11月14日 16時

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