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154 午後五時、カフェにて ページ14

病院近くに位置するこのカフェは紅茶がおいしいと評判だったけど、その紅茶もわたしの手元で冷えきっていた。天井まで届く窓ガラスから斜陽がさし込んでくる。キルアの白銀の髪がオレンジに濡れている。サファイアの瞳が赤みがかって、不思議な色合いになっている。



「……あー、なんか、腹減ったな」

「え」

「ここまでずっと動きっぱなしだったからさ。Aは?夕飯そろそろ食う?一緒に行こうぜ」

「……ううん、お腹すいてない」

「……そっか」



 何かひどいことを言われたみたいに、キルアがちょっとうつむいた。どうしてそんな顔をするんだろう。わたしがしたいよ。



「あのさ、キルア……」

「じゃあ久しぶりにゲーセンってのはどうだ?」



 キルアがぱっと顔を上げて言った。何か面白いものを見つけたときによくする、いたずらっぽい笑顔。



「え?いや、ゲーセンは……」

「実はずっと行きたかったんだよなー。最近はそんな余裕なかったし。あ、今日はプリ一緒に撮ってもいいぞ。クレーンゲームでデカいぬいぐるみ取ってやるし。もしAがいいならアルカも呼んでやろうぜ。絶対に楽しい」



 言って、わたしの手をつかんで立ち上がる。わたしを連れて歩き出す。引っぱろうとする力が大きくてつんのめった。



「ねえ、キルア……」

「あ、ここから1番ちかいゲーセンってスゲェんだよ。隣にクレープ屋があるんだぜ。クレープも久しぶりだな。いちごかバナナでいつも悩む」

「キ……」

「そういえばクレープ屋のくせにクレープ以外にも何かあったな。しょっぱい系の……」

「キルア!!聞いて!!」



 わたしを無視して喋り続けようとする声を遮った。キルアの足が止まった。ついでにわたしのも。



「わたしたち、別れよう」



 たとえアルカちゃんが許してくれても、わたしという赤の他人がふたりの旅に付いていくべきじゃないのは、言うまでもないことだった。キルアはずっと不自由を強いられていた妹を救うことを選んだ。それは正しい。振られるわたしから見ても。

155 美少年の欠片→←153 アルカちゃん



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- 一気に読み切ってしまいました!楽しかったです!途中感情移入して泣いちゃうとこもありました笑更新楽しみに待ってます! (4月16日 21時) (レス) @page39 id: 46b1d29c13 (このIDを非表示/違反報告)
◎SaE(プロフ) - あなたの書く文章が大好きです。 (12月22日 11時) (レス) id: 5b13a1df84 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 更新待ってます。 (9月2日 23時) (レス) id: fdd6e06bf4 (このIDを非表示/違反報告)
こもれび(プロフ) - 有希さんと好みが似ているのか、好きなキャラや印象で近しいものが多くて共感しまくりです。こちらの作品を詠ませて頂くのは多分これが3度目なのですが、性懲りも無く毎度同じ場面で泣いてます。顔面が涙でぼろぼろです。言葉巧みな表現が大好きです。応援しています。 (2022年12月28日 4時) (レス) @page39 id: 4d4f4ab205 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる-ameizumi(プロフ) - 今出ているところまで読み切りましたがとて好きな文章構成や内容で、ところどころでほんとに泣いてしまいそうでした。終わりが見えてきそうですが最後まで応援しています。 (2022年12月23日 0時) (レス) id: 5d2780f034 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有希 | 作成日時:2021年11月14日 16時

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