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142 ゴンという男の子 ページ2

「あと少し待ったら日没だからさ」と言うから、針千本のませる前に慈悲深く猶予を与えてあげた。トラックからおりるときもらった寝袋は薄くて、ちっとも防寒できてない。どうにか暖をとろうと、トラックで乗り合わせたひとに擦り寄りカップラーメンを少し分けてもらった。状況が状況だからか、今まで食べてきたカップラーメンの中でダントツでうまい。湯気までうまい。何だか泣けてくる。



「あーしみる……」

「A、空を見て」

「今それどころじゃな……」



 しぶしぶ器から顔を上げて──わたしは言葉を失った。見渡す限り、星、星、星。幾千もの恒星たちが遥か彼方で燃えていて、空は紫のような青のような不思議な色合いをつくっていた。建物がないから地平線スレスレまで星で埋め尽くされていた。この星空はきれいだとか、そんな言葉ごときで表せそうにない。周りの観光客もわあっと声を上げて写真を撮っている。



「……グリード・アイランドに似てると思わない?」

「え?」

「あそこも建物がなんっにもないから、ぐるっと360度ぜいたくに星が見えたよね」



 言われてみれば、確かに。わたしとゴンと、キルアにビスケ。夜中に目を開けるとみんなで同じ光景を共有できた。それも素晴らしい星空を。あの島で並んで寝た記憶とオーバーラップするみたいに、流れ星が夜闇を滑っていった。



「それに、あのエメラルドグリーンの海はくじら島っぽくなかった?珍獣いっぱいの森でオレはハンター試験を思い出したし、あの高すぎるビルにはヨークシンでの記憶が呼び起こされちゃうよね。旅団と会ったときはヒヤヒヤしたなぁ」

「……」

「自分じゃ気づかないんだろうけど、Aは強くなってるよ。それは身体だけじゃない。オレたちは足掻いてもがいて、いっぱい痛い思いもして、怖い目にあって、でも大切なものを勝ち得てきた。キメラアント討伐に関われないからって……これが最後の戦いになったとしたって、Aがオレたちとしてきたこと、意味なかったなんて言わないでよ。ムダなものなんてひとつもないよ」



わたしは泣きながらうなずいた。ずっとうなずいた。

143 ノブさん(千鳥ではない)→←141 密度120パーセント



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- 一気に読み切ってしまいました!楽しかったです!途中感情移入して泣いちゃうとこもありました笑更新楽しみに待ってます! (4月16日 21時) (レス) @page39 id: 46b1d29c13 (このIDを非表示/違反報告)
◎SaE(プロフ) - あなたの書く文章が大好きです。 (12月22日 11時) (レス) id: 5b13a1df84 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 更新待ってます。 (9月2日 23時) (レス) id: fdd6e06bf4 (このIDを非表示/違反報告)
こもれび(プロフ) - 有希さんと好みが似ているのか、好きなキャラや印象で近しいものが多くて共感しまくりです。こちらの作品を詠ませて頂くのは多分これが3度目なのですが、性懲りも無く毎度同じ場面で泣いてます。顔面が涙でぼろぼろです。言葉巧みな表現が大好きです。応援しています。 (2022年12月28日 4時) (レス) @page39 id: 4d4f4ab205 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる-ameizumi(プロフ) - 今出ているところまで読み切りましたがとて好きな文章構成や内容で、ところどころでほんとに泣いてしまいそうでした。終わりが見えてきそうですが最後まで応援しています。 (2022年12月23日 0時) (レス) id: 5d2780f034 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有希 | 作成日時:2021年11月14日 16時

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