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それでは、さようなら ページ6

わたしは泣き崩れる醍醐景光をそのままに、お堂の扉を閉めた。百鬼丸という礎が消え、ひび割れた田に沿って村に戻る。たった一人の犠牲の上でなりたっていた国の因果とやらを眺めながら歩く。空はこの国の新たな始まりを告げるように、真っ青に澄んでいる。



 わたしのことを、欲深い魂だ、と百鬼丸は気づいてたんじゃないかと思う。寿海さんの愛情をちゃんと感じていたように。知ってて。百鬼丸は、そんな欲深い、自分勝手な魂だと知ってて、わたしを選んでくれた。周りはまるで、わたしが百鬼丸を見つけて選んだように言うけど、きっと逆なんだ。彼がわたしを見つけて選んでくれたの。



 それにしても、まだこの世界にとどまっているのは意外だった。いつになれば帰されるのかわからないから、身動きが取りづらい。あいつ使えねぇな。それくらい教えとけよ。



 うーん。これからどうしよ。百鬼丸はとっくに長旅を始めただろうし、行けるところまで、どろろと醍醐の民のクレイジージャーニーに付いていこうかな。そんなことを考えながら森を抜けて顔を上げると頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。だってそこに旅に出たはずの相棒が待っていたから。



「ど、どうしたの?」

「……Aとどろろから離れて旅に出るつもりだった……でも、やめた」

「何で?」

「Aがいないのは、嫌だと思った」



 ほんと、この相棒は。相変わらず言葉足らずだし、仮面のごとき無表情だし、どうしよもなく愛おしい。だけどね、もう足が動かないの。この世界がわたしの動きを制限しているみたい。

 最後の力をふりしぼる。絶対に忘れさせてあげない。絶対に忘れさせてあげない。忘れられたくない。忘れないでほしい。最後まで言わなかった、ずるい私は、どこまでもずるい。



 黒の着物の襟をつかむ。かたくなった両脚でぐっと背伸びする。顔が近づいてくちびるを重ねる。わたしは天使の羽にならない。光の粒に包まれることもない。一国より、ひとりの男を選んだ女がそんな綺麗なものになる訳がない。百鬼丸がまばたきをした間に、跡形もなく消える。


「……A?」

その声は、空に溶けるだけ。

ゆるやかに若さを溶かして→←残酷と罵られても構わない



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設定タグ:どろろ , 百鬼丸   
作品ジャンル:恋愛
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翡翠(プロフ) - 展開が神‼です!どろろにはまったのホント最近なんですけど、マジで最高です! (2022年3月23日 16時) (レス) @page17 id: d32df67ed7 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - 朔弥139さん» はじめまして!感想うれしいです。アニメ完結から2年が経った作品でもあなた様のコメントをいただけたことで、いつかやろうと思っていた加筆修正に着手することができました。本当にありがとうございました。 (2021年7月3日 9時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
朔弥139(プロフ) - 初めまして、何度読み直しても好きな作品です。本当にありがとうございます (2021年6月12日 11時) (レス) id: 327451071d (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - あやかさん» 全て!?ありがとうございます……!ひさしぶりに自分で読み返すと拙く読みづらい文だと感じましたが、そんな風に言っていただけて……ありがたいです。またどこかでお会いできたらと思います!! (2020年3月17日 11時) (レス) id: c151be2953 (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - 全て読ませていただきました。ほんとに素敵な物語をありがとうございます。『どろろ』次回作をお待ちしています。よろしくお願いします。 (2020年3月9日 21時) (レス) id: e756cf6e94 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有希 | 作成日時:2019年6月28日 20時

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