初恋は実るためにある ２【HUNTER×HUNTER】

67　ゴンから見た2人 ページ22

「キルア」

「ん」

「……手を、繋ぎたい」



　敢えてありがとうは言わなかった。わたしはキルアの布団にぽんと手を投げ出す。ちょっと間があいて、ゴソゴソと衣擦れの音がした。
「ほらよ」って言うみたいに、そっぽを向いたまま握られる。触れたところから熱が共有される。



「ふふふ、手汗かいてる」

「嫌なら離すぞ」

「やだ」



　身体を寄せあった。キルアの左腕に頭を乗せる。キルアの匂いがする。ほのかに甘い、ミルクみたいな肌の匂い。殺し屋だった彼は、ハンター試験のとき怖いくらい何の匂いも纏っていなかった。それじゃ今やこうしてシャンプーやら食べ物やらの匂いをくっつけているんだから、わたしは嬉しくなった。



*



　ジャポンを出発した船のデッキでカモメを眺めていると、ゴンが寄ってきた。わたしがそうしているみたいに、手すりに組んだ両手を置いて空を見上げる。沈黙を埋めるように小波が鳴っていた。



「オレ寝たフリすんの大変だったんだからね」

「……あー」



　起きていたのか。申し訳ないことをした。どう詫びようか考えあぐねていると、「でもよかった」ってゴンが笑った。



「キルアからイチャつこうとしているところ、あんまり見たことなかったからさ……ちょっと心配してたんだ。だけど要らない心配だったみたい。ちゃんと愛されてるんだね」



　愛されている。そうか、わたしは愛されているのか。自覚はしていたけど、他人に言葉にされるのはまた格別な響きがある。



「安心してよ。ちゃんとイチャイチャしてっから。ゴンの見えないところでね」

「オレに気を遣ってたら怒るよ？」

「違う違う……キルアが恥ずかしがってるだけ」



　ゴンはわたしを邪険にしたことなんて一度もない。普通グループの中で交際されるなんて厄介極まりないけど、ゴンは喜んで受け入れてくれた。本来ならキルアと男子ふたり旅を楽しめていたはずなのに、わたしという異分子を心から歓迎する。



「ゴンの懐の広さにいつも救われているよ、ありがとう」

「どういたしまして」


ハブにすんなよって割り込んできたキルアに、両側から抱きついた。

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