【wrwrd!】深く長く、愛を吐く (ページ34)

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Ⅲ ページ34

中学の頃、好きな女がいた。

そいつの男友達の中ではとびぬけて一番仲がいい自信があったし、いつか然るべきタイミングできちんと想いを伝えようとしていた。
けれどそのうち、周りの奴らから『付き合っちゃえよ』なんていじりをよくされるようになって。内心『ほっとけや、俺のタイミングがあんねん』と思っていたある日。

あいつが言った。

「…ねぇ、付き合っちゃう？」

は？まじで？周りの空気に流されとるだけで、ほんまに付き合いたいと思ってるわけちゃうやろ？
そうは思っても口から出た言葉は、

「せやなぁ」

なんて返事。ほんとうはもっとちゃんと伝えるはずだったのに、これでやっと恋人同士になれるのだということに目が眩んで。
…それがあかんかったんやろな。

あっという間に終わった。いや、始まってすらいなかったのかもしれない。
気付いたら、連絡が途絶えて数か月が経っていた。

もしあの時、あいつの提案に『冗談やろ？』と返して、後日改めて想いを伝えていたら、結果は変わっていたのだろうか。…いや、想いを伝えることなどしなかったら、あいつにとって『一番の男友達』でい続けていたなら。今もくだらない話で笑い合えていたのだろうか。そんなことばかり考えていても、時間は無慈悲に過ぎて行く。

気付けば成人式当日の朝を迎えていた。

慣れないスーツに袖を通す。お祝いなんだから、と母親から渡された光沢のある青いネクタイを結んだ。

会場に着くと懐かしい顔ぶればかり。思い出話に花を咲かせ、近状を報告しあう。そんな中、大好きだったあの声が聞こえて振り返る。
桃色の振袖。あいつがいた。
変わらない笑顔。…だけど、大人の女性になっていた。

「コネシマお前どこ見て…、おぉ、お前の元カノやん」
「元カノ…か」

傍から見れば、俺達は確かに恋人同士だったみたいだ。