はんぶんこ (ページ7)

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誘われる。やぶひかページ7

『やぶ…』

なんだろう。夢かな。幻かな。

俺の胸元にぴったりと頬を寄せて体重を預けてくるのは間違いなく光なんだけど。

今日の朝まではそんな素振り一切見せなくていつも通りだったのに。

たしかにこの状況を望んだのは間違いなく俺なんだけど。

いざ光から触れられるとどうしていいか分からない。

どうすることも出来ずに慌てふためく俺に、さらに追い打ちをかける一言。

『抱きしめて、くれないの？』

あ、俺死んだ。

なんて冗談は通じない。

よく見ると光の瞳に涙が溜まっているから。

悲しそうなその顔に、1週間ぶりのキスを落とす。

『今抱き締めちゃうと、止めらんないよ？』

そんな余裕はないくせに、光にかっこ悪い姿は見せたくなくて。もう1度触れるだけのキスをして風呂へ見送った。

何も言わずに素直に風呂へ行ったということは。光もその気なんだと思っていいんだよな。

ぐだぐだと考えていたら、思いの外早く光が寝室へ来た。

『ひか、る？』

ベッドへ腰掛けた俺の前に立つ光は、俺が頼んでもやってくれない、オーバーサイズのシャツ一枚の姿。

暗くてよく見えないけれど、顔を真っ赤にしているであろう光の口がもごもごと動く。

『なに？光』

『まだ、俺としたいって、思う？』

やっと聞き取れた言葉に耳を疑う。

まだ、俺としたい…

どういう意味だ。俺が？光と？したいに決まってる。まだ？まだどころかこれから先ずっと、光としかしたくないしする気もない。

よほど俺が返事に困っていたのか、しびれを切らした光にどさりとベッドに押し倒される。

『やぶはっ、俺んだろ！俺とだけしてろよ！』

言葉の意味が理解できないまま、唇を重ねられる。

初めてなんじゃないかって思えるくらいに深い光からのキスを味わう暇は、なかった。

上にいる光から、ぽつりと何かが一滴落ちてきたから。

光が逃げないように腕を引いて、今度は俺が光をベッドに沈める。

『光、泣いてるの？』

『やっ！泣いてな、見るなぁ…』

片手で顔を隠して藻掻く光は、不謹慎だけどめちゃくちゃ可愛い。

『光、聞いて。俺は光としかしたくないし、いつも光を抱きたいと思ってるよ』

『嘘だぁ、』

『嘘じゃない。今だって光にキスされてすっげぇ嬉しい』

宥めるように頭を撫でて、顔中にキスを降らせる。

硬くなっていた光の身体からだんだんと力が抜けていく。

『光がいいなら、このまま抱きたい。いい？』

泣いている理由は、後で聞けばいい。