はんぶんこ (ページ36)

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『誰か先生やめるっけ？』

『あれじゃん、中島先生。大ちゃん仲良かったから』

大ちゃんが離任式に行きたいって言うからみんなで来たのだけど。ついでに高木も。

私服で来てるやつも結構いて、みんな中島先生目当てなんだといのちゃんが教えてくれた。

大ちゃんは壇上で挨拶をする中島先生に釘付けだし、生徒からはすすり泣く声さえ聞こえて、中島先生がどれだけ人気だったのか分かる。

確かに背が高くてイケメンで爽やかで優しくて面白くて。非の打ち所のない中島先生は俺も好きだったけど。

『最後に、ここで誓いたいことがあります』

みんなが中島先生へ目を向ける。俺も、もちろん薮も。

大ちゃんが、ごくりと唾を飲んだ音が聞こえた。

『元3Aの、有岡大貴』

『え？』

みんなの視線が一斉に大ちゃんへ向いて怖いけど、大ちゃん本人が一番驚いている。

『大ちゃん、立っちゃえ』

『ちょっ！うわ！』

いのちゃんが大ちゃんを立たせて、さらに注目の的。

『ずっと待たせてごめん。絶対に幸せにするから、俺と結婚してください』

ヒューと高木の口笛が聞こえた。

信じられない気持ちで大ちゃんを見ると、ボロボロと大粒の涙が流れていて、中島先生の言葉が嘘じゃないことが分かった。

『大ちゃん、返事っ』

いのちゃんが大ちゃんの背中を押すと、力なく大ちゃんが一歩前へ出る。

大ちゃんしか見ていなかったから全然気付かなかったけれど、大ちゃんの前には中島先生が立っていた。

背の高い中島先生が大ちゃんの前に跪いて、優しく左手をとって大ちゃんを見上げた。

そっと薬指に指輪を嵌めて、

『結婚、してくれる？』

とトドメの一言。

めっちゃくちゃ様になっていて俺も惚れそうなくらいにかっこいい。俺でさえ見蕩れるほどなのに、大ちゃんに触れていない方の手は震えていた。

先生、怖いんだ。

そう思ったらなんだかものすごく先生を応援したい気持ちになって、大ちゃんの返事ばかりが気になる。

『俺で、いいの…？』

やっと聞こえた大ちゃんの声は震えていて、いつもの元気はどこいったんだって言いたくなるほど小さかった。

『大ちゃんじゃなきゃ嫌なんだ』

『ゆうとっ…』

しゃがんだままの先生に大ちゃんが抱きつくと、体育館が揺れるほどの歓声が上がった。

中島先生はそのまま大ちゃんを抱き上げて、2人は強く強く抱き合っていた。

『光、泣いてるの？』

『え、うわっ、ほんとだ』

無意識のうちに涙が頬を流れていた。