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年上彼女 ページ8

「どうしたの」

薮『やり忘れ』

「そう」

俺が戻ってきたことに深雪さんはかなり驚いたみたいだった。大丈夫、俺は深雪さんより嘘はうまいはず。

実際に忘れてはいないものの、仕事なんてなくならないもので。デスクにつくとやるべき事が山のように出てくる。

静かな環境と少しの緊張感は今までないくらいに仕事が捗った。

「薮くん、私帰るけど」

集中していた頭に深雪さんの声が入ってきて、俺は手を止めた。
見ると深雪さんは身支度を終わらせている。

薮『俺も、帰ります』

パソコンの電源を落として、急いで深雪さんの後を追う。

「本当は仕事なんてないんでしょ」

エレベーターの中で先に口を開いたのは深雪さんだった。なぜかバレている。
俺がなんて返事しようか悩んでいるうちに深雪さんは話を進める。

「ありがとう。薮くんのそういうところ、優しいなって思う。それと、昨日はごめん、心配かけて」

やっと俺の目を見て話してくれた。
どうやら怒っているわけではないらしい。たぶん話すタイミングがなかったんだ、お互いに。

薮『深雪さんが謝らないで。俺もちゃんと謝りたいから、帰ってきて、早く。それで、ゆっくり話そう』

近くにいたら、触れたくなる。手を伸ばせばすぐに掴めるのに、それをしないのは深雪さんが求めていないからだ。
今触れたら、歯止めが効かなくなる。
多分それを分かっているから、深雪さんも帰ってこられないし、俺も強制できない。

「ありがとう。じゃ、また明日ね」

薮『ん、また明日』

また明日、なんて言ったことなかった。
おやすみ、って言って同じベッドに入るのが当たり前だったのに。
別れがこんなに辛いものなんて、初めて知った。
深雪さんの遠くなる背中を見送るのがこんなに苦しいなんて、知らなかった。

俺たちに今必要なのは冷静に考える時間。
それはきっと深雪さんも思っている事だと思う。
ただ俺のしたことが気に入らないならこんなに離れる必要なんてない。
俺がいつも通りに謝って、深雪さんがそれを許して、仲直りして終わりだったはずだ。

深雪さんを手放さないために俺が今やらなきゃいけない事があるはずだ。
今俺が諦めたら本当に終わってしまう。
それだけは嫌だ。
深雪さんだけは失いたくない。

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作成日時:2017年5月8日 9時

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