紫煙ヒトメボレ

愛される理由 ページ25

『せんせい…』


『なに？寝れない？』


大貴のことが大切だ


伊野尾と話す度に思い出させられる今までの奴らとは比べ物にならないし


光から聞かされる度に言ってやらなきゃと思う。


大貴は俺の嫌がることは絶対にしないし
仕事の邪魔もしない。


俺には出来過ぎた恋人だ。


そんなに気にしなくて良いのに、と思うのに


甲斐甲斐しく俺の世話を焼く大貴を独り占めしているようで、嬉しくなる。


寝室の入口に立つ大貴を手招きする。


オーバーサイズのスウェットが可愛いのなんのって。


『まだ寝ないの？』


『学会近いしなぁ。オペレポート溜まってる』


大貴を腕の中に閉じ込めて、論文を翻訳してくれる通訳の小言を思い浮かべる。


『邪魔じゃない？』


『邪魔じゃない』


本当は毎日だって抱いていたいのを我慢しているのに、大貴から寄ってきてくれたら我慢する必要なんてないだろ。


『俺に手伝えること、ありますか？』


『病院でもこうやって甘えて欲しい』


『そ、なの、むり…』


俺が言った戯れ事もすぐに想像して照れる姿なんかもう本当に天使なんじゃないかと思う。


『お前仕事中患者のことばっかだもんな』


『仕事中って分かってるくせに』


『うん。大貴のそんなとこが好き』


自分の口からこんな言葉がするりと出てくることに、まだ俺が驚いてるんだ。


他人に理解して欲しいなんて、微塵も思っちゃいないのに。


『俺、も…好き、です』


目も合わせられないくせにそんな言い方をするなんて。誰に教わった。


『はぁ…』


『あ、すみません…』


癖のように出る溜め息を、こいつは何回誤解しただろう。


『仕事終わってねぇのに』


『俺、寝ます』


『寝かせるかよ』


わけが分からない、といった顔の大貴の唇に噛み付く。


『せ、んせっ…』


『火ぃつけないでよ』


『火、って…』


『お前の匂いも感触も全部やばいのに、なーんであんな可愛いこと言っちゃうかね』


この天然小僧が俺じゃない誰かをこんな気持ちにさせてるのかと思うと嫉妬で気が狂いそうになる。


可愛くて可愛くて、仕方ない。

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