オレンジ色 ページ10
「有岡さん、おはようございます。起きてください」
マネに身体を揺さぶられて起こされるのはもう何度目だろう。
俺の寝坊や遅刻への対処法は、誰かに鍵を預けることだった。
ひかとは違う意味でパーソナルスペースが狭い俺は、他人に家に入られることが大嫌いだ。
でもこのマネだけは、許せた。
『…はよー』
「急いでください」
『はいはい』
俺が目の前で服を脱いでも全く気にしないマネは、色気の欠片もない。
なんだって薮くんも雄也もこいつを抱くんだろう。
抱ければ誰だっていいのかな。
まぁそこは否定しないけど。
『ちょっと脱いでみて』
「そんな時間はありません」
一切の動揺も見せず返事をするマネのネクタイは、オレンジ色に光るタイピンで留められている。
『それ俺の色?』
「そうですね」
ふわりと笑ったその顔を、見て見ぬふりはできなかった。
『なんで今そんな顔するかなぁ』
「え?…っ、」
衝動的に、キスをしていた。
ただ触れるだけのものを、1回。
そして唇が離れて、一言。
「支度してください」
『はいはい』
驚いた顔は見れたけれど、恥ずかしいとか照れるとか、それはなかった。
だから全部の支度が終わってさぁ家を出ますって玄関で。
『やっぱもう1回しよ』
「そんな時間はありません」
『してくんなきゃ行かない』
「どんな我儘ですか」
『いいから』
華奢な身体を壁に押し付けて顎を掴む。僅かな抵抗があったけれど、ぬるりと舌を差し込めば大人しくなった。
あぁこれは諦めたな、と思った。
角度を変えて何度も、深く深く味わう。
しっかりと絡められる舌は、キスに慣れている証拠。まぁ当たり前か。
「っん、ふ…は、ぁ…」
『そんな声出すんだ』
一瞬目に入った顔も、瞳をとろりと潤ませていたから、ちゃんと感じているんだと分かった。
『意外に可愛いじゃん』
「有岡さん、遅刻です」
『ムードねぇなー』
「仕事ですから」
こいつなら、いつか抱いてもいいかも。そう思った。
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作者名:ney-ko | 作成日時:2018年5月29日 1時