水色 ページ7
その日はなんとなく歩きたい気分で、仕事場まで徒歩通勤。
そうしたら帰りは見事に雨。運が悪いと思った。
「中島さん、送ります」
『え、ありがとう。助かる』
俺だけ別の仕事があったから現場を移動して、帰る頃に現れたマネージャーに送ってもらうことに。
『助手席でもいい?』
「いいですよ、どうぞ」
基本無口で無表情なマネージャーは、やっぱり運転中も変わらなかった。
『運転、上手いね』
「好きですから。それに田舎育ちで車がないと生活していけない地域だったので」
『田舎なの?』
「東京とは違って電車もバスもないところです。通勤も買い物も全部車でした。家族全員車を持っているのが当たり前です」
『へーそうなんだ』
何気なく話しかけただけなのに予想外に返事がきて、しかも割と盛り上がった。でかした俺。
ふと隣を見れば、無表情なのは変わりがないのに心做しか楽しそうに見える。BGMは当然のように俺たちのアルバム。
ハンドルを握る指はリズムを刻むように動いていて、運転が本当に好きなのだと分かる。
視線を少しずらすと、ジャケットを脱いで運転しているそこにシートベルトがぴたりと当たっていてボディラインが引き立っている。
女性なのにネクタイしてるんだな、とは思っていた。
キラリと光ったタイピンには、水色の石が埋め込まれている。
『…綺麗だね、それ』
「タイピンですか?…これは、中島さんの色ですね」
ふふ、って。笑った。見間違いではないはず。
『笑ったね、今』
「え?私ですか?笑いますよ」
『いや笑ってないよ、いつも』
「可笑しくもないのに笑えませんよ」
『なんか俺に対して割と言うね』
「気のせいですよ」
『それ!これが薮くんとかいのちゃんだったらそんな返ししないでしょ』
「それはそうですね」
『なんで?』
「大人ですから」
『薮くんたちが?』
「私がです」
『嘘でしょ』
「はい。冗談です」
『ちょっと』
まさかこのマネージャーとこんなふうに笑い合えるとは思っていなかった。
後で聞いた話だとマネージャーには弟が居て、俺に少し似ているらしい。
「中身ですよ。私の弟が中島さんみたいなイケメンなわけないじゃないですか」
って自虐ネタまで披露された。
『また、一緒に帰ろ』
「機会があれば」
事務的な会話は変わらなかった。
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作者名:ney-ko | 作成日時:2018年5月29日 1時