緑色 ページ41
『大丈夫?』
「…大丈夫ですよ?」
『嘘ばっかり』
本番行為にまではさすがに至らなかったものの(でもスタッフが居なければきっと最後までしてた)、みんなを相手にしてかなり体力は消耗したはず。
シャワー室で力尽きるくらいには。
「ここ、女性用ですよ」
『分かってるよ』
どんな大御所だとしても女性専用フロアへの立ち入りは禁止されている。間違いが起こらないために。
『でも、熱あるでしょ?』
きっとみんな気付いている。それでも敢えて知らないふりを決め込むんだ。
マネのプライドを守るために。
悪いけど、世間知らずな俺にはそんなこと関係ない。
『倒れるまで無理しないで』
「倒れてません」
『口答えが子どもみたい』
お互い裸で、狭い個室で、熱いシャワー。
マネの身体にはみんなにつけられた赤い痕が目立っている。
『やっぱり薮くんが一番好き?』
「なんですか、それ」
『ねぇ、どうしたらみんな平等に扱えるの?』
一つのグループで何年もやってきたからって似てくるわけじゃない。見た目も中身も十人十色。
事務所内にはたくさんのグループがあるけれど、人数が多い分個性も豊かだと思う。
そんな俺たちを、マネージャーっていう人たちはいつも同じ目的に向かって導いてくれる。
その中でもマネはやり方は違えど間違いなく俺たちをまとめる力はある方だと思う。
「この世界は年齢関係なく所属年数で若手と言われます。みなさんは若いままここまで来てる。それは決してマイナスではありません」
年齢は後輩グループと変わらないのに、俺たちは先輩になった。上からも下からもやっかまれて、子どもながらに辛い思いをした時もあった。
「個々の実力は高いのにそれを出し切れない、それはみなさんの下積みがなかったからです。でもそんなことは今さらどうすることも出来ない」
どこで見ていたのか、誰を見ていたのか、マネージャーは俺たちのことだけじゃなくてみんなのことを知っている。
「与えられた仕事を全力でやる、私が出来るのはそのサポートだけです。みなさん勘違いしているようですが、私はなにもしていませんよ」
マネが止めたシャワーのコルクをもう一度捻る。
『なにもしなくていいから、居なくならないで…』
「岡本さ…」
なにもするつもりはなかった。ほんの少しからかうだけのつもりで。
ただ、時々無性に人恋しくなるこの隙間を埋めて欲しかった。
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作者名:ney-ko | 作成日時:2018年5月29日 1時